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2014年4月

2014年4月27日 (日)

[書評] ビッグデータ分析に巻き込まれた時に読むとよい本

今の仕事はいわゆる「戦略コンサルタント」ともう少し業務よりの「ITコンサルタント」の間のような仕事をしているのだが、やっぱり世の中で言われるようなbig dataに関する問い合わせというのは特に昨年度下半期ぐらいからかなりある。
このbig dataという言葉、世の中に積極的に広めている会社の一つに間違いなく今自分が働いている会社があるので、功罪ともにあるというのは感じるのだが、実に曖昧かつ適当な使われ方をしているんだな~と感じる。

例えばお客さんのところにいくと「上司から○○分野でbig dataを使って、何か施策を考えろと言われまして・・・・」みたいな話をされるわけだが、だいたい7割ぐらいは「それってExcelでも十分Okですね」みたいな回答をしている※1。重要なのはデータの量ではなくて、何のためにどういったデータを利用するべきか・・・ということを考える必要があるんですよ~という話をするわけだが、だいたいの場合はお客さんは満足してくれない。なぜなら上司から求められているのは、「big dataで何かをすること」であって、今の技術で出来ることをするというわけではないのだから。


ちなみにこの傾向と言うのは何もお客さん側だけではなく、社内でも見ることが出来るのが結構厄介だ。さすがに、自分がいるような部署は実際にサービスを提供するほうなのでそういったことはあんまりおこらないが、営業のようにとにかくたくさんの商品を扱う側になるとイチイチ一つ一つの商品を詳しく勉強してくる時間もないので、とりあえずbig dataといって話を持ってきたりする(そこで修正するのが、自分がいる部署の役割だったりするわけだ)。

そんな感じで猫も杓子もビッグデータ状態なIT業界なのだが、実際に何が出来て、何が出来ないか・・ということを真正面からちゃんと解説した本と言うのは意外にない。だいたいの本は、「ビッグデータで○○が出来る」系のあおり本か、テクニカルな解説を行っていて数学に慣れていない人には開いた瞬間から眠くなってしまうような本だ※2。そういった「何が出来て、何が出来ない」という話に真正面から答えようとするのが本書だ。ただし、実際の内容の半分ぐらいは「ビッグデータでなくてもできることはたくさんありますよ」という内容なので、ビッグデータ真正面からの本というわけでもない(公平のために記しておくと、著者は僕の恩人というべき方)


会社を強くする  ビッグデータ活用入門  基本知識から分析の実践まで

Part1. 活用のための基本知識と計画41uasfh16ml
第1章 ビッグデータ活用の基本知識
第2章 ビッグデータを競争力強化に使う
第3章 事例から見る競争力強化のポイント
第4章 ビッグデータで事業構造を正しく知る
第5章 分析のための準備

Part2. 分析の実践
第6章 データ分析のステップ
第7章 事業構造の概要を把握する
第8章 顧客を軸に分析する
第9章 打ち手につなげる分析


Amazonを見ても章立てがなかったので書きだしたのだが、これを見るとわかるとおり本書は「どうやって」を追求するよりも、「何のために」を伝えるために書かれている。そして、そのメッセージはすごくシンプルで、要約してしまえば「ビッグデータを使って、顧客と自社の関係を正しく把握しましょう」ということに他ならない。

Par1では、ビッグデータを利用する前にまず最低限、自社の理解を行おうということを言う。ここで重要なのは「本当に把握をするためには、何もビッグデータである必要はありません」ということだ。著者は経営コンサルタントの経験が長く、すらっと書き下してしまっているが、まずはデータを使うためにはそれを理解するための構造を正しくイメージする必要があるということ、を伝えている。

ちなみに、この部分は「ビジネスに限っていえばそうだよな・・」とは思うのだが、研究生活の端っこをかじったことがあるぐらいの自分からすると、未知の分野では必ずしもそういうアプローチをする必要はない、とも思っている。例えば物性科学の世界では「論理関係はまだよくわからないけど、並べてみたらパターンが浮かび上がってきたので、空いているところをめがけて研究を行う」というアプローチがあり得る。論理的な関係性を作るというのは、多くの場合においては調査のための時間を削減してくれるし、アプローチの方向性を定めてくれるのでよいのだが、一方で認知バイアスになってしまう可能性があるということには注意が必要。


Part2では、一歩進んで実際にビッグデータを利用することが出来る事例について紹介している。ここで紹介されるのは基本的な方法論で、データに二次属性を追加して分析を行うという手法なのだけれど、これは実務の世界においてはかなり役に立つ。特にデータ量が少ない場合には全データ解析を行ってもあまり意味がないので、人の手を使ってしまったほうがずっと楽。少なくとも、この本を手に取る層にとってはまずこういった手法を身につけることは重要だろう。

ちなみに、この部分もビッグデータ分析をアカデミックに行おうとすると「邪道」な方法である(著者はそのことを自覚していると思うけど)。人の手を入れて二次属性を付与してしまうと、どうしても判断にばらつきが出てしまうため、本来であれば多次元空間上で距離を参考にしたり、参照データをもってきて分類学習用のデータセットを準備してあげるほうが、よりアカデミックなアプローチではある※3


繰り返しになるが本書は「まずビッグデータを使って何かやらなければ」となった企画部門の人が対象であって、本格的に統計解析を学びたいという人は別の本を読む必要があるし、自分のテーマにビッグデータがふさわしいかどうかを真剣に考えたいという人には、また別の参考書が必要となる。そういった「まずは何が出来るの」を考えたい人にとっては巻末に実際の事例があるというのはうれしい処で、とりあえず何か上司にレポートを出さなければいけない、という時にはここをまとめるだけでも、時間を稼ぐことができるのではないだろうか。

個人的には、このビッグデータ関連の話はデバイス側と組み合わせたり、いわゆる「モノのインターネット」と絡まないと活用できる領域は限定的なんだろうな・・と理解をしているのだが、否も応もなくこの世界に巻き込まれてしまった人には、本書のようなガイドブックがスタートを切るのに参考になるだろうと思う。





※1・・・最新のExcelは100万行を越えるデータを扱えるので、たいしてデータ量がないものに関しては十分に解析可能。
※2・・・理数系である自分にはこういう本も嬉しいのだが、なかなか実務イメージがつくような本がないというのも難点。
※3・・・とはいえ、こういう話をしだすといきなり「見た目上は」難しくなってしまうので、そんなのは蘊蓄を語りたい人だけが考えればよいのだ・・・というのが本書の眼セージだと思っている。

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2014年4月26日 (土)

[書評] 中国を学ぶためにこんな本を読んでみた2 -現指導者層の選出前後を振りかえる-

2014年現在では中国の話と言えば、習近平体人制の対日強硬姿勢だったり、環境問題の話題だったり、あるいはようやく大物が対象とされてきた(一応は)腐敗対策だったりするわけだが、現指導体制が出来る前、2010年や2011年の最大の関心事というのはそもそも「胡錦濤以降の体制はどうなるか」だった。ちょうど僕はそのころは上海にいて、MBA受験の勉強をしていたり、最終的には合格をして学生への準備を始めていたころだったのだが、それこそそういった話題は「他人事ではなく」最大の興味関心だった。

日本では盛り上がるようになったのは随分後だったが、薄熙来の話題は中国に興味がある人の間では長い間のトピックであったし、それこそ一発逆転で李克強が国家主席になるのでは・・と言われている時期もあった。
日本に帰ってきて、中国の生の声はだいぶきけなくなってしまったのだが、あらためてあの頃のことは日本ではどのように語られていたのだろうかということが気になって、最近立て続けに3冊ほど当時の話題を読んでみたのであった。


● チャイナ・ナイン41v5pnkuurl

この本は、中国生まれで日本育ち、成人してからは中国の公的機関の顧問も経験したと いう立場から現代中国について発言をしている遠藤誉さんが書かれた本で、タイトルは中国の最高指導者層である中央政治局常務委員が9人で構成されているところからきている。

この本では当時の関心事だった、家主席が誰になるか(結局は習近平になった)や、結局のところ政治的には完全に終わることになる薄熙来は常務委員になれるのか、といった人事に関することから、そもそも9人が選ばれるのか、それとも7人なのか、といったように多くのトピックが含まれている。

この本はその結果(18大)がわかる前に、現指導者層を予測するということで書かれた一冊で、著者は独自のネットワークも使って指導者層をめぐる権力闘争の内幕の「絵解き」を行っていく。中国にそこそこ長くいた人間としては、こうやって「中の人とつながりがあります」的なこと堂々という人は、あまり信頼が置けない・・・というのがあるのだけれど、そこはある程度割り引いて読むほうも考えるしかない(深淵をのぞいている時には、向こうも覗き返しているという文を思い出す)。


2014年の今となっては結果がわかってしまっていて、当たり外れを語るというのは後だしじゃんけんになってしまって意味がないが、そもそも中国の権力構造がどのようになっていて、意思決定というか「彼らの内側の世界観」がどのようになっているのかを理解するにはうってつけの本だと思う。
このあたりまでは遠藤さんの書く文もも楽しく読むことが出来たのだが・・・、。

● チャイナ・ジャッジ

話の流れ的には前作「チャイナ9」からの続きで、結果として第五世代
では指導層に入れなかったどころか、政治的には51trhekpzl完全に終わることとなってしまった薄熙来に関する多くの謎について語る本。

・・・というと、冷静なノンフィクションかと思いきや、内容的には著者の想像が大半を占めている。これまでは中国生まれで日本育ち、成人してからは中国の公的機関の顧問も経験したという立場からの光るコメントが多かったのに、ちょっとどうしてしまったの・・・というのが正直な感想である。

著者自身も書いている通り、自分の幼少期の体験と関係してくるような内容だっただけに冷静に語ることが出来なくなってしまったのだろうか。事件直後になるべく早く出そうというのもあっただろうと想像するけど、完成度は類書に比べるとかなり低い。前作はなかなかよかっただけに残念。。

 


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● 紅の党

こちらは朝日新聞が2012年に三回に分けて特集された中国の新体制(習近平体制)の立ち上げに対する取材結果を一冊にまとめた本。中国ネタに興味がある方であれ既知の情報が多く、とりたてて新しいネタはない(とはいってもこの取材が行われたのは2012年で、僕が読んだのは2014年であるからこういった評価はフェアではないかもしれない)

この本が書かれたきっかけになるであろう薄熙来は日本ではそれほど報道は

 

されていなったかもしれないが、中国では2010年ぐらいからかなり注目をされていたので、正直なところ中国総局といっても現地で報道されている情報とあまり変わらないな・・というのが率直な感想。

現指導者体制がどのようにして出来あがったか・・・ということをコンパクトに把握するには向いていると思う一冊。


中国の現指導者層の話題が大きく取り上げられた理由の一つに、指導者層入りを狙って派手な動きをしていた薄熙来の失脚と、それに関連する多くの謎があったのは間違いない。実際のところ、僕個人も彼の動きを見ていて「今後、指導層に入ったら、外国人にとって住みづらい国になるんじゃないのかな・・・」と思っていたぐらいなので、直前の失脚と言うのには、こうやって安全装置が働いたのだろうか・・という気持ちをもったぐらいだった。

一方で、薄熙来について公式に発表されたことというのはほとんどなくて、党員としての資格を失ったこと、裁判が行われていること、妻の谷開来は罪が確定していることぐらいである。現在も進んでいる腐敗対策の大物対象である周永康に関連があつだろうといわれているように現在進行形の話題でもあるのだが、基本的には彼の話と言うのは「終わったこと」のようにも見える。もちろん、彼という存在が明らかにした中国の現状課題というのは何も変わっていないようなのだけれども。


あれだけ騒がしい時期を過ごしても、あっという間に歴史の1ページのような扱いになってしまう時間の早さを、この3冊を読み直して改めて感じたのだった。

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