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2018年4月

2018年4月19日 (木)

[書評] なぜ「戦略」で差がつくのか(著:音部大輔)

ビジネススクールの卒業にあたっても書いたが、Strategyというのは大変難しい。この難しいというのは色々な理由があって、まずもって「戦略」という概念が対象としている事象が難しいということがあげられる。「戦略とは何か?」という問いに対して研究者ですら統一的な回答はないであろうし、戦略という言葉をなんでもかんでもの対象に使ってしまっているために、語っている階層(レイヤー)が異なってしまい、同じ「戦略」を会話しているはずが気がついたら全然違うということもよくある。

また、経営学の範囲で取り扱っている「Strategy」にしても、マイケル・ポーターを嚆矢とするポジショニングに重きを置く学派もあれば、組織内のCapbailityに重きをおく立場もあるし、組織学習や進化により注目する立場もある。近年ではそのハイブリッドな考え方も出てきているし、デジタルによって変化する部分・しない部分を議論したりと、とにかく議論の幅が広い。さらに、「戦略」を語るにあたっては、例えばプログラミングのようなスキルや、数学・工学などに求められるような専門的な知識が必要ないと"思われている"せいで、誰でもとりあえず何かを語れてしまうという状況にある(※1)。

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そういった状況なので、戦略のことを一般の人が学ぼうとすると、やたら分厚い教科書を全体像がよくわからないまま読み始めるか、著者の経験+ちょとした理論(+自慢話)がさらっとまとめられた本を手に取るか・・という2択を迫られてしまうことが多い(※2)。そんな人にお勧めできるのが本日とりあげる"なぜ「戦略」で差がつくのか"である。

本書の著者である音部大輔さんは、P&Gをはじめとしてダノンや日産などの様々なB2C企業でマーケティング畑で経験を積まれ、直近は資生堂のCMOとしてマーケティング組織をデータを用いて学習し続ける組織に変革されようと活動されていた。現在は独立されて、Coup Marketing Companyという会社を立ち上げられている。神戸大学で経営学の博士号も取得されており、いわゆる「すごい人が自分の経験をもとに書いた」本とは一線を画している。


私は前職(IBM)で最後のほうにお仕事の関係で音部さんとお会いする機会があり、著書にサインもいただくことができた。なので、全く接点のない方の本を紹介するわけではない・・・ということは最初にご了解をいただきたい。

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● 本書で定義する戦略と、その実現方法 ●

本書では、議論する戦略の定義を「戦略とは目的達成のための資源利用の指針」であると定義する。これは、音部さんのこれまでの組織人としての実務経験が強く反映されていると個人的には感じている。一般的に、極めて高いポジションにおりかつ大企業でもない限り、自社のポジショニングや組織的Capabilityを深く考察して戦略を構築するということはないと思う。むしろ日々の業務に求められるのは、"達成すべき目的とは何か?”を明確にして、"(普通は)足りないと思われるリソースでどのようにそれを達成するのか"ということである。

本書は第1章で上記のように戦略を定義した後は、一貫してその戦略をどのように実現するかについて筆を費やしている。音部さんの経歴から、主に取り上げる範囲はマーケティング分野を対象とされており、マーケティングや営業などの戦略を考える立場にいるであろうミドルマネージャーには役に立つ内容となっている。第1章以降の内容をざっとまとめると下記のようになる。


  • 第2章:戦略の構成要素①
    「目的」を解釈する 目的を「いい目的」と「そうでない目的」に分類した上で、いい目的を設定するための考え方としたSMACとSMARTという概念を紹介する。

  • 第3章:戦略の構成要素②
    「資源」を解釈する 目的の達成のために必要となる資源(リソース)を、「内部資源」「外部資源」「認識しにくい内部資源」「認識しにくい外部資源」に分類して、それぞれの内容や効率的な運用方法について解説する。

  • 第4章:戦略の効用
    戦略を持つことはどのような意味があり、具体的にどのような意義を組織に持ち込むことができるかを説明する

  • 第5章:戦略を組み立てる
    実際に戦略を構築する立場になった際に、どのように戦略を構築していくとよいのかをとく。また著者の経験から、避けるべきポイントや、戦略をブラッシュアップするための方法論を紹介する。

  • 第6章:戦略を管理する、第7章:戦略的に考える、第8章:「戦略」をより深く理解する 実際に立案した戦略をどのように組織の中で管理し、実現するのかについて説明する。また最終章では、様々な本書の考え方を様々な戦略論の中で位置付け、今後さらに学習をしたい方向けのガイダンスを提供する。


● 本書をよりうまく活用するために ●

あらためて本書を読み直してみると、一貫して「資源」ということに注目をしていることに気がつかされる。これは考えてみれば当たり前で、どのような戦略論であっても「リソース」を最大限効率よく利用することが重要であることに加えて、マーケティングというのはまさに「資源(特に金)」が勝負を決める重要なファクターになるからだ。

どのような組織にいたとしても「資源がありすぎてどのように使うか」といった悩みを抱えている人間はほとんどいないだろう。普通は「溢れる要求を足りないリソースでどのように処理するか」について悩んでいることだと思う。そういった人に向けて、まさに本書は適切な考え方を提示する本と言えるだろう。逆にいうと、比較的フリーハンドで全社の経営企画を考えるとか、マーケティングでもリサーチ領域にいるような人は本書は物足りないかもしれない。現場で勝つための方法論を学びたい人向けの本であると言えると思う。


また、もう一つ本書が現場で優れているのは「様々な人間を巻き込むことを前提として考え、そのための様々な方法論を提示している」ことだ。特に私が優れていると思ったのは、"5年後の未来から逆算して考える"という方法論だ。中期経営計画のようなものを読めばわかる通り、どれほど考え抜かれていても、ただそれが分析結果として提示されるだけでは戦略は胸踊るものにはならない。理性だけでは人は動かないのだ。

そういった落とし穴を避けるためにも、「成功をイメージした5年後から逆算する」というのはとてもよい方法だと思う。確かに、あまりに想像が高すぎると絶望感が増してしまうが(※3)、多くの人はチャレンジが明確になるにつれてやる気が増してくるものだと思う。
現場で、エキサイティングな仕事をして勝つためのお供、として本書を読んでみるのがよいのではないだろうか。


※1・・・ちなみに個人的には「戦略」という概念や理論を研究するという観点からは、軍事・戦争について専門的に研究している方のほうがより精緻に議論を展開しているというイメージがある(あくまでイメージかもしれないが)。

※2・・・過去に戦略に関する体系的な勉強をしたことがない人は、三谷宏治さんの「経営戦略全史」を最初に読むと全体感が掴めて良いと思う。

※3・・・そういうことを避けるために、まず「いい目的」を選定することが重要であると著者は述べている。

2018年4月 2日 (月)

イノベーションを少しでも高い確率で起こす方法

私が1月末から勤めているSRI (Stanford Research Institution)は、受託研究開発を主なビジネスとしているのだが、最終的にはお客様と社会のイノベーションを支援するということを目標として掲げている(ビジョンでは、「世界を変えることができるソリューションを生み出す」ことを掲げている)。米系企業というのは、このイノベーションという言葉が大好きで、例えばSRIの前に勤務していたIBMでも、「IBMはクラウドとコグニティブによりお客様のイノベーションを支援する」企業である、といっていた(※1)。

このイノベーションという言葉、日本ではよく技術開発と同義語で使われたり、一方では、技術開発がなくてもイノベーションであるという主張を極端にして「既存の要素を組み合わせて新たな価値を生み出す」のがイノベーションであるという人がいたりと、人それぞれの定義があるようで中々議論が噛み合わない領域だというのが、多くの人が持っている印象ではないだろうか。特に日本においては「カイゼン」の文化が広く浸透しているため、カイゼンとイノベーションは違う/同じだという議論がなされたりする。

イノベーションを研究する学者や学会によっても微妙に定義が異なるので「これが正しいInnovationだ!」という主張をぶつけあうことは宗教論争みたいなものになってしまうためここでは避けるとして、SRIではイノベーションを「新たな顧客価値(==市場価値)を作り出し、市場に送り届けるプロセス」として定義している。ここでいう顧客というのは狭い意味の「製品・サービスを有償で買ってくれる」顧客だけではなく、「自分がしている仕事の成果を利用する人」ぐらいの意味で使っている。なので、いわゆる企業のコストセンターや内部部門にも顧客はいるというように定義している。


● イノベーションを起こすためのフレームワーク ●

先ほど"イノベーションを支援するということを目的としている"と書いたが、ただ闇雲にそういうことを言えば実現するというわけではないし、また、SRIの場合には何かしら特定の製品やサービスを用いて「イノベーションを支援する」というわけではない。むしろSRIは顧客とのプロジェクトを通じて、「顧客の内部でイノベーションを起こすためのきっかけとなる」ことをビジネスとしていると言うほうが適切かもしれない。そのための、フレームワークについて詳細に記述されているのが、本日紹介する「イノベーション 5つの原則」だ。

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本書ではSRIが実践している、SRI内部、および顧客とのプロジェクトにおいてイノベーションを起こすためのフレームワークの詳細が記述されている(※2)。詳細な内容についてを語るには、結局本書と同じだけの分量が必要となってしまうが、簡単にいうとイノベーションを高い確率で起こすためには、以下の5つの要素を考慮し、それぞれの値を引き上げていく必要がある。


確率 = ① ニーズ ✖️② 価値創造 ✖️③ チャンピオン ✖️④  チーム ✖️⑤ 組織化


上記の式を簡単に説明すると、それぞれの要素は以下のような内容となる。


  1. ニーズ:市場や顧客にとって「重要度の高い」ニーズを明らかにする
  2. 価値創造:「重要度」と「満足度」に注目して、打ち手が生み出す価値を試算する
  3. チャンピオン:イノベーションを内部で推進するリーダー(チャンピオン)を見つける
  4. チーム:イノベーションを完遂させるための人材を集め、適切なコミュニケーションルールを設定する
  5. 組織化:イノベーションを支援する組織体制や文化を醸成する


本書ではそれぞれの要素について、より詳細な内容やどのようにして「要素が高まっているか」を判断するための方法論が提示されているのだが、イノベーションを自分のビジネスで起こしたいと考えている人間にとって参考になるのは、前半部分だろう。イノベーションに結びつくようなニーズの見極め方や、価値創造を行うための理論的な枠組みが提示をされている。

● イノベーションは人が引き起こす ●

一方で、後半になるにつれて「人」の要素が増えていき、勉強して学ぶことができる「フレームワーク」的な考え方は少なくなっていく。例えば、上記にあるようにイノベーションを起こすためには、困難な時にも情熱を持って進めることが出来る「チャンピオン」が必要であるとしているのだが、"どのようにチャンピオンを作るのか"というノウハウのようなものは一切提示されない(※3)。

また、チームの部分についてもイノベーションを促進するため(あるいは阻害しないための)のコミュニケーションについての簡単なノウハウは提示されるのだが、日々どのようなコミュニケーションを行うと、どのくらいイノベーションが促進される・・・といった定量的なデータはない。


結局のところ、本書を読んで最終的にわかるのは「イノベーションをある組織(社会)で起こすためには、人が決定的に重要である」ということだ。どのようなレベルの(あるいは大きさの)組織でも構成員は複数おり、また極めて論理的な人間が多い組織であったり、知性が高い組織であったとしても、イノベーションに対応する反応というのは、最初から全ての構成員が諸手をあげて賛成するということはないと言っていいだろう。 だからこそ、そういった人によって発生する摩擦を乗り越えていくためには、人のパワーが何よりも必要になるのだということを、本書は声高ではなくても強く言っている。

本書に紹介されている方法、あるいはSRIが提供するソリューションというのは確かに「イノベーションを少しでも高い確率で起こす方法」であることは間違いがない。一方で、あるレベルまで論理的に物事が積み上げられていったら、最後の部分はその組織に属している「人」の力になる。であるならば、そういった「人」を探し出すこと、そういった「人」が前向きに進んでいけること、あるいはそういった人に火がつく瞬間を生み出すことが出来るような組織や社会こそが、これからのイノベーションの時代を勝ち抜いていくということなのだと思う。


※1・・・ビジネススクールの笑い話として教授が紹介していたのが、『ビジネススクール出身の人間の描く文書から"Innovation"と"Strategic"を除くと分量が1/3になるというのがある』くらい、Innovationというのは「意味はわからないがなんか凄そう」という言葉の典型だったりする。ちなみに、IBMの時には意味のない言葉として他にも"World class"という単語があげられており、マーケティングではそういう単語を使うのをやめよう・・・という運動がなされていたが、全く定着しなかった。

※2・・・こういったフレームワークを紹介する本の場合、記述していることと社内で実践されていることに大きな乖離があるということがしばしばあるのだが、実際に入社して見て驚いたことに、本当にこのフレームワークを活用してSRIでは仕事を行なっている。

※3・・・本書は米国を主な対象として書かれているので、外部から人材を調達することを除外していない。そういう意味においてはチャンピオンを探す自由度というのは日本のほうが難しいかもしれない。一方で、日本の場合、社員が短期的な業績のみを追わなくてもよいということで、じっくり腰を据えて物事を進めていくチャンピオンを探しやすいという可能性もある。

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