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2019年4月

2019年4月22日 (月)

高齢者の事故を防ぐためには、技術×法制が必要

自分にもまだ幼児と呼べる子供がいるので、こういった事故を聞くたびにものすごく辛い気持ちになるのだが、またも高齢者の運転している自動車による事故で小さいお子様が亡くなられた。
事故の理由については今後の捜査により判明すると期待されているが、こういった事故が発生すると自動車会社はこういった事故を防ぐようにすべきだ」といった意見がSNSで多く見られるようになる。もっと極端になると「自動運転なんかにお金を使うよりも、こういった事故を防ぐ技術を先に開発すべきだ」という意見もある。
繰り返しになるが自分にも幼い子供がおり、そのように思う気持ちも十分に理解するし、実際に我が家でも「どんなに交通ルールを守っていても、車が暴走して突っ込んで来ることがある」という前提で、どのように安全を守るべきかという話を妻としたりする。一方で、新たな技術の社会実装支援を仕事としている人間としては、こういった問題は「技術的に完全に防ぐことはできない」ということも理解している。そこで、今回はそのメカニズムを簡単に解説しておこうと思った次第だ。
 
なお自分は勤務している企業において、複数の自動車関連企業とプロジェクトを実施しているが、当然のことならが今回の記事には業務上で得た知識は含まれていない。また、本記事における主張は個人的なものであり、組織を代表した意見ではないことを明記する。

今回のような事故を防ぐ技術

自動車による暴走事故を防ぐ技術として最も一般的な技術は、前方や後方に障害物がある場合に、自動でスピードを緩める機能でpre-crash safety systemと呼ばれている(該当するwikipediaの技術はこちら)。これはすでに商用化されて久しい技術であり、多くの自動車メーカーによって提供がなされている。駐車場に車を入れる際にお世話になったことがある人もいるだろう。
この技術よりも、より直接的に「アクセルとブレーキの踏み間違い」を防ぐ技術としては、ペダル踏み間違い時加速抑制装置がある。これは、「誤ってアクセルを踏んでしまった場合」に自動車が急加速することを防ぐ技術だ。説明としてはこちらのHPがわかりやすいと思うが、ビデオを見ても分かる通り、ドライバーが踏み込んだ際にも車は急に出発をしたりしない。一方で注意が必要なのは、車が加速しない場合にドライバーがアクセルを踏み続ける場合にはやがて車は加速するように設計がされている。これは後ほど述べる緊急対応を行うためにドライバーの自由度を残しているためだ。こちらの技術もすでに実用化がされており、後付けで装着が可能な装置も発売されている。
他にもドライバーが何らかの理由で運転中に急に意識を失ってしまう、あるいは正常な判断ができないと外部から理解できるような状況においては車を安全に路側帯に止める機能であるとか、車同士が通信を行なって車間距離を適切にたもつといった技術のような、商用化が見えているものの実搭載はなされていない技術も多く存在する。


技術だけでは「すぐに」問題を解決できない3つの理由

こういった技術は自動車会社(あるいは部品サプライヤー)によって開発が行われているが、残念ながら技術的なアプローチだけでは今回のような事故を防ぐことは当分の間(自動車のモデルチェンジでいうと数世代)はできそうにない。これにはいくつかの理由がある。

  1. 緊急時対応は依然として残る
    先ほどのLink紹介時にも書いたように、今の自動車では「緊急対応時に備えて、最後の判断はドライバーが行うことができる」という考え方が基本的な設計思想である。こういった緊急対応の例、日本では想定することはなかなかないが、「自動車の前方と後方に銃を構えた強盗が立っている」という場合を想定しよう。こういった場合、(議論はあるだろうが)ドライバーはその強盗を跳ね飛ばして逃げるということは、自衛のための手段として想定される。逆に自動車が「前後に人がいるために動くことが出来ない」と判断して動くことが出来ず、かつ強盗にドライバーが危害を加えられた場合には、訴訟問題となるだろう(もちろん実際には、購入時の事前の合意などが問われるだろうが・・・)。

    こういった犯罪の場合でなくても、例えば「急に道路が陥没したので、緊急避難として前に車があってもアクセルをふむ」、あるいは「上からものが落ちてきたので、急発進をした」とか、我々日本人に理解しやすい例としては「地震が発生して逃げ場が塞がれそうだったので壁を壊して逃げる必要があった」といった例が考えられる。いずれも、ドライバーが自分の判断で「周囲の状況を理解していても」急発進や急加速をせざるを得ないという状況である。

  2. 現在想定される技術の限界点
    SNSでは「自動運転の時代になれば、こういった緊急対応の問題は自動車側で適切に処理することが出来る」という意見を見ることもある。では、こういった緊急時対応すらも自動車側(駆動系+ソフトウェア)に任せて最適な道を瞬時に判断できるようなことが現在の技術の延長線上で可能だろうか・・? 

    残念ながら現在のアプローチでは非常に難しいと言わざるを得ない。現在想定されている技術で自動運転を実現する際には(いったんここでは自動運転Levelは3~5で幅を持たせると仮定して)近距離+中距離の周囲の情報を取得し、かつマクロの情報を組み合わせて自動車の制御を行うことが想定されているが、いずれにしても「自動車をコントロールする」ソフトウェアを事前に学習させる必要がある。この記事で想定しているような緊急時対応は発生頻度が極めて少ないと考えられるので、通常発生するような状況に対しては有用である機械学習を活用した方法よりも、技術者が様々なケースを想定して事前にプログラムを行うことになるだろう。

    そういった人間がマニュアルでプログラムを行う場合に発生し、かつ解決な問題が2つある。一つは、「人間が想定した以外のことには対応できない」ということであり、もう一つは「AIのコントロールと、マニュアルのコントロールを瞬時に判断して、切り替えることが非常に難しい」ということである。自動運転というと、我々のような40代前後の人間はナイトライダーに出てくるナイト2000のような車を想定するが、現在の技術で実現可能な自動運転車はナイト2000のような汎用的な知識を持つことが出来ない。こういった状況で自動運転車に全てを任せるということは、先ほど述べた①の問題については、ドライバーが運転を諦めるという選択肢しか存在しない。

  3. 技術伝播にかかる時間
    これは現在でも見られる問題ではあるが、最新の技術というのは広く行き渡るにはかなりの時間がかかる。例えば、先ほど紹介したペダル踏み間違え時加速抑制装置はすでに商用化されているが、必ずしも全ての自動車に搭載されているわけではない。現在のところ自動車の平均的な買い替え時期というのは7~9年ぐらいと言われているが、これは平均値であるから、全ての車が先進的な事故抑制装置を持つようになるまでにはそれ以上の時間がかかる。更に言えば、こういった装置は文字通りの全ての自動車が標準装備するか、強制がされない限り常に購入者側に選択基準が存在することになる。現在でも理論的には日本では「エアバッグがない車が普通に走行できる」ことを考えると、今日紹介したような抑制装置が行き渡るまでにはかなりの時間がかかると言えるだろう。

個人的には特に③の理由により、今回のような事故を防ぐには技術的な面での改良よりも、法制面での対応のほうが"実効性が高く"かつ"迅速に"事故を減らすことが可能であると考えている。法制面により対応が可能であるということは、言い換えれば問題解決は我々の選択に依存しているということだ。

2019年4月18日 (木)

AIが熟練工を育てる世界

3月の中旬に、一週間びっちりお客様のとある工場でプロジェクトのためのインタビューと情報収集に行って来た。プロジェクトの中身を詳細に記載することはできないのだが、製造工程にこれまでとは異なる技術を用いることで、工場で働いている方の生産性を飛躍的に増加させたい・・・というのがプロジェクトの目的だ。



理系とはいえソフトウェア側にずっといたので、工場の中に一週間もいて作業をしっかりみるという機会はこれまで一度もなかったのだが、今回見てみて、あらためて「まだまだ人間にしか出来ない世界は存在する」のだなということを理解できた。その工場ではμmオーダーの製品を作っており、その製品の製造自体はほぼ自動化されているのだが、"その製品を作るための自動化ラインのメンテナンス"はほぼ完全に人の手によるものである。残念ながら、現在の技術ではどこで発生するかわからない故障に対して自動で対応できるロボットを作ることは不可能であり、たとえ「人工知能が人間の知恵を超えて、人工知能が人工知能自体を作るようになる」といわれるシンギュラリティを超えても、「製造設備を全て作ることができる製造ロボット」はまだ実現しそうにない。鍛えられた人間の微細を感じる感覚というのは、まだまだ模倣が難しいのだ。

 

もう一つ、今回の出張期間では製造設備設計を行う方に話を聞く機会があったので、"世の中では、AIや新技術により「人間の仕事がなくなってしまうのではないか・・?」という漠然とした不安感があると言われているが、どう思うのか"という質問をしてみたところ、大変示唆に富んだ回答をいただくことが出来た。
 
  • 少なくとも自社(および自社グループ)の工場では継続的に人間が作業をしなければならない工程や、そもそも関わっている人を減らすこと(省人化)をしているので、人間自体が工程から減ることは脅威ではない。それが機械的に実現されるのか、それともソフトウェアによって実現されているのかの差だけであると感じる。
  • 上記のような考え方をとっている一方で、生産数自体は増加しつづけており、全体としての労働者数は減ってはいない。全てを自動化することはまだ遠く、また出来たとしても生産設備改善やメンテナンスは常に必要であり、AIやロボットが人間の仕事をゼロにしてしまうという未来がすぐに来るとは思えない。
  • 現状で人間が関わっている部分というのは、これまでの手法では「どうやっても人間を排除できなかった工程」であり、全工程のほんの一部に人間が残っているというのは労働者にとってもあまりいい環境ではない。できることなら、枯れた製品については早めに完全自動化を実現したい。
 
 
このように、工場の現場では「限られた人間のみが行える業務(習得が極めて難しい業務)」と「既に汎用対応が終了している業務」(ロボットやソフトウェアで対応が可能な業務)が並存しており、長期的に見れば後者の領域は拡大され続けているが、製品の精度や変更タイミングの短期化、そしてメンテナンスの複雑化といった問題が存在している限り人間がなすべき作業というのは存在し、さらにその難易度は上がり続けていくのだ。
難易度があがるということは当然習熟までに時間がかかるし、そもそも習熟出来る人間というのもそれなりに限られてくる。少なくとも今回訪問したお客様では、習熟した人間を育成するスピードよりも、製品製造量の拡大スピードの方が大きいため(人材育成スピード < 製造量拡大スピード)人材は常に足りなくなるという危機感を持っており、その状況を改善するために「人材育成にAIを含む最先端の技術を活用したい」と考えているのだ。
 
これは少なくとも今後10年以上は続く、技術的なトレンドなのではないかな・・・と個人的には考えている。以前に、技術はコストダウンだけではなく人間の能力を拡張(Augmentation)する方向に利用されるだろうと書いたことがあるが、まさに日本の工場でも同じようなトレンドを見ることが出来た。日本で取り上げられるのは圧倒的にコストダウンの話が多いが、これからもこういった現場の深い知識(Deep knowledge)を活用した技術開発を提供していきたい。

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