August 2019
        1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31
無料ブログはココログ

カテゴリー「On」の記事

2019年4月18日 (木)

AIが熟練工を育てる世界

3月の中旬に、一週間びっちりお客様のとある工場でプロジェクトのためのインタビューと情報収集に行って来た。プロジェクトの中身を詳細に記載することはできないのだが、製造工程にこれまでとは異なる技術を用いることで、工場で働いている方の生産性を飛躍的に増加させたい・・・というのがプロジェクトの目的だ。



理系とはいえソフトウェア側にずっといたので、工場の中に一週間もいて作業をしっかりみるという機会はこれまで一度もなかったのだが、今回見てみて、あらためて「まだまだ人間にしか出来ない世界は存在する」のだなということを理解できた。その工場ではμmオーダーの製品を作っており、その製品の製造自体はほぼ自動化されているのだが、"その製品を作るための自動化ラインのメンテナンス"はほぼ完全に人の手によるものである。残念ながら、現在の技術ではどこで発生するかわからない故障に対して自動で対応できるロボットを作ることは不可能であり、たとえ「人工知能が人間の知恵を超えて、人工知能が人工知能自体を作るようになる」といわれるシンギュラリティを超えても、「製造設備を全て作ることができる製造ロボット」はまだ実現しそうにない。鍛えられた人間の微細を感じる感覚というのは、まだまだ模倣が難しいのだ。

 

もう一つ、今回の出張期間では製造設備設計を行う方に話を聞く機会があったので、"世の中では、AIや新技術により「人間の仕事がなくなってしまうのではないか・・?」という漠然とした不安感があると言われているが、どう思うのか"という質問をしてみたところ、大変示唆に富んだ回答をいただくことが出来た。
 
  • 少なくとも自社(および自社グループ)の工場では継続的に人間が作業をしなければならない工程や、そもそも関わっている人を減らすこと(省人化)をしているので、人間自体が工程から減ることは脅威ではない。それが機械的に実現されるのか、それともソフトウェアによって実現されているのかの差だけであると感じる。
  • 上記のような考え方をとっている一方で、生産数自体は増加しつづけており、全体としての労働者数は減ってはいない。全てを自動化することはまだ遠く、また出来たとしても生産設備改善やメンテナンスは常に必要であり、AIやロボットが人間の仕事をゼロにしてしまうという未来がすぐに来るとは思えない。
  • 現状で人間が関わっている部分というのは、これまでの手法では「どうやっても人間を排除できなかった工程」であり、全工程のほんの一部に人間が残っているというのは労働者にとってもあまりいい環境ではない。できることなら、枯れた製品については早めに完全自動化を実現したい。
 
 
このように、工場の現場では「限られた人間のみが行える業務(習得が極めて難しい業務)」と「既に汎用対応が終了している業務」(ロボットやソフトウェアで対応が可能な業務)が並存しており、長期的に見れば後者の領域は拡大され続けているが、製品の精度や変更タイミングの短期化、そしてメンテナンスの複雑化といった問題が存在している限り人間がなすべき作業というのは存在し、さらにその難易度は上がり続けていくのだ。
難易度があがるということは当然習熟までに時間がかかるし、そもそも習熟出来る人間というのもそれなりに限られてくる。少なくとも今回訪問したお客様では、習熟した人間を育成するスピードよりも、製品製造量の拡大スピードの方が大きいため(人材育成スピード < 製造量拡大スピード)人材は常に足りなくなるという危機感を持っており、その状況を改善するために「人材育成にAIを含む最先端の技術を活用したい」と考えているのだ。
 
これは少なくとも今後10年以上は続く、技術的なトレンドなのではないかな・・・と個人的には考えている。以前に、技術はコストダウンだけではなく人間の能力を拡張(Augmentation)する方向に利用されるだろうと書いたことがあるが、まさに日本の工場でも同じようなトレンドを見ることが出来た。日本で取り上げられるのは圧倒的にコストダウンの話が多いが、これからもこういった現場の深い知識(Deep knowledge)を活用した技術開発を提供していきたい。

2019年3月29日 (金)

USPSで荷物を送る時の注意

今の会社は法務部や財務といった、いわゆるバックオフィス部門は海外には置けないという構造になっているので、契約書やら請求書といった文書類を扱うのはすべて本社側に頼む必要がある。ほとんどの日本企業は原本を必要とするので、サイン済みのものをシリコンバレーの本社から毎回送ってもらう必要があるわけだが、当然、お客さんの手元に物理的に届くまでには時間がかかる。

日本側にいる自分たちとしてはこういった処理は早く終えてしまいたいし、日本企業はだいたいにおいて「◯◯日までに届きます」という情報を事前に欲しがるものなので、本社側から資料を送ってもらう場合には、期間がヨめてトラッキングが確実な方法であるEMSやFedexを利用するようにしている。普通の郵便に比べて高いけど、安心料含めての値段である。本社の人間も慣れている部署の場合は、特にお願いをしなくてもどちらかの方法で送ってきてくれる。

 

ところが先日、滅多にない税務関連の部署に書類をお願いしたところ「USPSで送りました」という返事がきた。USPSというのはアメリカの郵便局なのだが、EMSとわざわざ指定されていなかったので、心の中でアラートが鳴り嫌な予感がしたのであった(※1)。とりあえずトラックナンバーを送ってくれ、というお願いをしても「今週中につくと思うから大丈夫」という返事が帰ってきたきり連絡なしになってしまい、さらに嫌な予感が膨らむだけで、待つこと10日。やはり書類は届かない。EMSやFedexならとっくに届いているのに。

さすがに10日経っても届かないとこちらも怒りが湧いてきてマシンガンのようにメールを送ると「USPSでは遅れることもありますので・・」という怒りに油を注ぐような返事がヘラっと帰ってきたので、担当部門長(連絡先の人間)の上司に「ふざけんな、さっさと再発行してFedexで送りやがれ」というメールを送った対応をしてもらっているところ、ようやく書類が到着。米国発から実に15日間の長旅であった。書類1枚で15日、まだまだ地球は大きい。

 

今回こんなに到着が遅れたのは、発送した人間がUSPSのサービスカテゴリーをよく理解しておらず「普通郵便扱い」で送ってしまったのが理由なのだが、確かにUSPSのサービス名称はめちゃくちゃわかりづらい。はっきり言ってどれが一番早くて、どれが一番遅いのか、名称だけではさっぱりわからない。4つのサービス名称は以下。

  • Express Mail International
  • Priority Mail International
  • First Class Mail International
  • Global Express International

あまりにもわかりづらいのでTwitterで、どれが一番早く届くでしょうか?というアンケート結果をやった結果、First Class Mailが一番早い・・・という回答が最も多かった。自分だってFirst Classだし一番早いと思ったし。


 

 

ころが、なんとこのFirst Class Mailが一番遅いのである! そんなんわかるか!
15日間かかった今回の書類もFirst Class Mailで送られてきており、おそらく発送担当者も知らなかったと思われる。しかもこのカテゴリーは普通郵便と同じ扱いをされているので、トラックナンバーもあってないようなもので、国際郵便は追跡できない。

 

ということで、もし米国から郵便を送ってもらう際には、ぜひどのサービスカテゴリーで送ってもらうかを指定することをオススメする(普通に日本で生活していると、ほぼそういう機会はないと思うが・・・)。カテゴリーごとの違いはこちらのサイトを参照のこと。ちなみにEMSに該当するのはExpress Mail Internationalである。
明らかに名称がミスリーディングなのに変更しないということは、そもそも国際郵便のニーズはないということなのかしれない・・・。

続きを読む "USPSで荷物を送る時の注意" »

2019年3月 6日 (水)

CEIBSが今年のFT MBA ranking5位に

多少の上下はありつつも基本的に右肩上がりを続けている卒業したCEIBSのMBA ranking (Financial Times)もついに2019年版では5位になったようだ。上にいるのはウォートン、HBS、スタンフォード、INSEADという文字通りの世界的なMBAスクールのみで、下にはLBSやChicago Boothがあるという、なかなかに壮観な表がFTのページを開くと出てくる。なんと、MITよりも上なのだ。なんかの間違いじゃないかと思わずにはいられない。

Business School Ranking from the Financial Times 2019

20190306_113815_2


まあ、これはFinancial timesによるものなので、あくまで一面的な評価でしかない。他のMBAランキングでは名前が全く出てこないということもまだまだあるわけだし。以前にも書いたことがあるように、CEIBSの運営はある意味で非常に企業的に「MBAランキングをあげること」を目標にプログラムが組まれている。MBAランキングは様々な指標により構成されており、結局このランキングを目標にすることは学生側にとってもメリットになることが多いため、基本的にランキングをあげるための努力をするということは、学生の視点から見ても間違っていないとも思う。


ランキングの決定の中で最も重要な要素の一つは「卒業後のサラリーアップ」で、この項目でCEIBSは非常に強い(※1)。海外から来た学生が大きくサラリーを上げる機会を多く手に入れることはなかなか難しいと思うので、この項目に主に貢献しているのは大陸の学生だと思う。とはいえ、僕自身もそうであるように、5年後ともなると、それなりに帰った後の評価も上がってくるので、海外に戻って行った卒業生もこの項目には少しは貢献をしているはずだ。

一方で、今回の項目の中では「卒業生が推薦するかどうか」というところでは、あまり成績がよくなかったと聞く。これは卒業生が後輩に対してスクールを推薦するかどうか・・ということで、究極的には個人の考えによるものだが、確か僕もこの項目ではそれほど高い点数はつけなかった記憶がある。理由としてはだいたい以下のようなもの。

  • 学費や生活費が上がって来たので、かつてのように「米国と比較して安価にMBAを取れる」というメリットが薄れて来てしまったこと。近しい金額を払うのであれば、欧米のビジネススクールを比較した上で決定をした方が良いと思う。
  • 中国経済のレベルが上がって来て、”先進国の人間"ボーナスが使いづらくなったこと。日本に戻って中国企業に雇ってもらうということは可能性としてあるが、大陸で働こうと思ったら自分がいた頃よりもさらに厳しい戦いが待っていると思う。現地採用でいいというのなら別だが、大陸で幹部候補生のようなキャリアを外国人が得るのは大変難しい。
  • 日本ではまだまだCEIBSの知名度が低くて、外資系コンサルやIBDなどに入ろうとした際の「下駄」がまだまだ低いこと。高くなった学費の元をとるためには給与の高い環境にいかなければならないが、CEIBSだとまだちょっと難しいように思う。


上記を見てもらえばわかるように、もし後輩がMBAを取るということにフォーカスをしているのであれば、他の選択肢も検討すべきというのが僕のスタンスである。一方で、もし中国ビジネスにかけたい、なんとしても中国で成り上がりたいのだ・・・という人がいれば、依然としてCEIBSはトップの選択肢の一つとして検討されるべきだと思う。Rankingがいいという理由でCEIBSを受けてくれる学生もいるだろうし、実際にそういう学生を拒否する必要は何もないのだが、単純にRankingという視点だけで選ぶとやはり米国の名門スクールとは、まだ日本における機会というのはかなり差があるというのが現実だ。
なので、CEIBSを検討する人は、rankingだけではなく「なぜ中国でMBAを撮りたいのか」をぜひ真剣に考えてから入学をしてほしいと思っている。自分が中国で何かを見つけたいと思うのであれば、きっと素晴らしい体験ができるはずだ。・・・・でも、何かの間違いでRankingが1位になったりしたら、やっぱり嬉しいよねぇ。

※1・・・なんだかんだいってもビジネススクールに行く最も大きな理由は、自分のキャリアをよくすること ≒ 収入を上げることである。世界を変える前に、まずは自分の生活の改善を願うのは人として当たり前だ。。

2019年3月 5日 (火)

今年最初の本社出張

一ヶ月ほど前になってしまうが、2月第1週に今年初めての本社(シリコンバレー)出張に行ってきた。入社前のインタビューで1回、2018年は合計で4回出張にいったので、今回は6回目ということになる。さすがにこれぐらい出張に行くと体も慣れてきて、時差ボケは依然としてあるものの体の疲労はかなり少なくなってきた。その要因の一つとしては、行きと帰りの便を固定にしたこともあると思う。行きは羽田を19時過ぎにたつJAL02便、帰りはサンフランシスコを午後に出るJAL01便だ。これだと、向こうに着くのは昼過ぎなので、ちょっと眠気を我慢して夜に早めに眠ってしまえば時差関係なく眠りにつくことができるし、帰りは日本につくのが夜なので、家に帰って洗濯物を片付けたり旅装を解いて寝るとちょうどいい感じになる。おかげで、到着2日目の時差ボケは如何ともしがたいものの、それ以外はかなりスムーズに向こうでも業務に入れるようになった。

Img2161


今回も、日本から連れて行くお客さんと2日間のワークショップをはじめとして予定がぎっしり詰まっているので、シリコンバレーを観光することはほとんど出来ない。もう6回も行ってるのに、AppleもFacebookもGoogleも見たことがないのだ。だいたい、毎回メンローパークにある本社周りの極めて小さい範囲で出張が終わってしまう。下手するとスタンフォードに足を伸ばす時間もないぐらいだ。

そんな感じで予定が詰まっていたので、今回唯一行けたのは、メンローパークのダウンタウン(と呼んでいいものか悩ましいが・・・)にあるTrader Joe's。行けたと行っても、ホテルからは10分もしない距離にあるので、ちょっと買い物にきたという感じである。
Img2167 日本ではなぜかトレジョのトートバックが人気というと、毎回本社の人間がばかウケするのだが、確かに実際に足を運んでみると何がそんなにいいのかよくわからないというのが正直なところ。確かに食べ物は近くにあるSafewayと比較すると新鮮だな〜という感じがするけど、トートバックがブランド化するほどのものだろうか・・。旅人的にはSafewayのほうがデリや食事がある分便利という気がするのだが・・。
そういえばSafewayには、Amazonのロッカーが置いてあった。楽天のロッカーが日本にあるようなものなんだろうけど、なんというかネット小売の受け取りロッカーがリアル店舗にあるというのはちょっと不思議な気もする。

Img2160


シリコンバレーというと基本的に常に晴れで、雨が足りないために水圧が足りない・・・みたいな話をホテルの人とすることが多いのだけど、今回はずっとグズグズとした天気で、最終日は大雨になってしまった。飛行機に登場してから、大雨のために滑走路が閉鎖になったという情報が流れてきて、結局1時間半ほど離陸が遅れてしまった。最初のアナウンスで1時間ぐらい遅れる・・・とあったので、"そうか、3時間ぐらいは遅れるのかな・・・”と頭の中で計算したのだが、ほぼアナウンス通りに動いてくれた。この辺りはまだまだ頭が中国で止まっているという感じがする。

2019年3月 4日 (月)

CEIBSが提供する1+1 lecture Tokyoに行って来た

少し前になってしまうが、2月の上旬は母校であるCEIBSが日本で課外講義+ネットワーキングパーティーを行うということで、久しぶりに卒業生(Alumni)として参加をしてきた。Global MBA rankingの上位にそれなりに安定的に入るようになって来たCEIBSだが、依然として日本人の入学生は少なく、プロモーションのためにこういったイベントを初めて数年(今回が5回目とのことであった)。数年間はほとんど結果が出なかったものの、2018年度入学生は5名と過去最高の日本人学生数となったとのことで、さらなる学生増を狙っているようである。

今回のイベントはCEIBSの教授が東京で現在ホットなトピックのレクチャーを行うということで、テーマは「米中貿易戦争と日本への影響(US-China Trade Conflicts and the Impact on Japan)」。授業を行うのは、我々の時代には全員必修だったマクロ経済を教えているXu Bin先生である。
マクロ経済はおそらく日本の大学の学部レベルにも満たない授業内容ではあったと思うのだが、授業は今回来日したXu BinとBalaという屈指の人気教授の二人でわけあって授業が行われていた。


ものすごく情熱的な授業を提供し、またフィランソロピーにも積極的に参加するということで学生の間でも人気の高かったBalaと比べると、当時のXu Binはより学者肌という感じでいかにも大学の先生という感じだったのでそれほど印象には残るタイプの教授ではなかった(ただし中国人の先生にしては、恐ろしく親しみやすかったらしく、中国人の間で人気は高かった)。
また、英語のアクセントが微妙にわかりづらいため、一生懸命話してくれてもよく内容がわからないということが時々あり、個人的には授業中にどうしてもわからなかった内容を偏微分方程式を使って議論をしたことを覚えている(それにより、同級生からはMath Masterというあだ名をいただいたのも懐かしい思い出である)。

今回は、そのXu Bin先生が提供する1時間半のプロラグムがメインコンテンツだったわけだが、久しぶりに話を聞いて、いい意味で驚きがあった・・・というか、Xu Binこんなに授業うまかったっけ?という感じで、聞き入ってしまった。CEIBSは世界TOPクラスのビジネススクールになるという目標を明確にしているだけあって、結構指導側の入れ替えも激しいのだが、さすがに長年生き残っているだけのことはあると感心した。というか、気がついたらAssociate Deanにもなっているし、偉くなったんだなぁ。

先生の話の中で面白かった内容を箇条書きするとこんな感じ。もともとCEIBSは中国にありながらもかなり「気を使わずに発言をする指導陣」が多かったのだが、今回は日本にいるということで、さらに積極的に自分が思っていることを話してくれたのではないかという気がする。
  • 政治的な意思決定は常に国民の動向を意識して行う必要がある。これは米国側のリーダーであるトランプだけではなく、中国側の習近平も同じである。共産党による一党独裁であっても、なんでも自分の思い通りにできるわけではない。
  • 現在の米中貿易紛争は、イデオロギーの戦いではなく、形の違う資本主義同士の戦い。なので、米国にとっては冷戦とは異なる側面がある一方で、かつての日本との戦いから学んでいる点がある。
  • 中国の資本主義は米国の資本主義と異なるというのは事実。一方で、中国経済が成長しているのは「共産党による管理・指導」があったからという認識は間違い。政府による介入や管理がなければ、中国経済の発展はもっと加速するはず。
  • 今後10年以内に、中国のGDPは米国を抜くと予想するが、それが真の意味での経済的な優位性や国の優位性を意味するわけではない。例えば、米国のパスポートとと中国のパスポートを比較した時に、どちらを取得したがる人が多いかで、国の優位度が計られたりもする。
  • 中国は中成長の罠から抜けられるかまだわからない

に気になったのは、ここ数年International Student(中国籍以外の学生数)の数が一貫して低下していること。データ上では自分がいた2011年入学組がピークでその時はだいたい45%が外国籍だったのだが(台湾籍、香港籍含む)、今はそれが30%程度に低下していた。DiversityはMBA rankingの評価要素の一つで、CEIBSも積極的に外国籍の学生を採用しようとしていたが、最近は少し戦略が変わったのかもしれない。
学費も上がって来たことでCEIBSのコスト上のメリットが薄くなったということもあるだろうし、中国が成熟して来て、外国人を「中国国内で採用する必要」がなくなって来たということかもしれない。いずれにしても、現在スクールにいったらかなり雰囲気が違っているんだろなぁ・・・。

2018年9月14日 (金)

AIの"A"は何という単語の頭文字なのか

Artificial(人工)だというツッコミはあると思うのですが、本日は最後までお付き合いください。

最近すっかり日本では次のビッグウェーブとしてのAIという単語は定着あるのだが、このAIという単語、何の略なのかはご存知だろうか・・?ほとんどの方は「Artificail Intelligence(人工知能)の略である」と答えると思う。


正解は‥‥その通り、”ほとんど”の場合においてAIのAはArtificialの略と言われている。ただ、ほとんどと書いた通り、例外もある。例えば、日本のAIソフトウェアとしては最もブランド力があると思われるWatsonは、かつてはAugumentated Inteligence(拡張知能)の略でAIであると言っていた。結局この言葉とIBMが進めていたコグニティブ(Cognitive)という言葉は市民権を得ることなく、ほぼ消えてしまったのだけれれども・・。。

当時IBMにいた時の私はこの言葉を聞いた時には「何を独自性を出そうとしてるんだ、素直に普通と同じ言葉を使えばいいのに」と思っていた。以前はe-businessとか、Smarter Planetといったマーケティングワードで世の中の流れを決めるようなことが出来ていたように見えるIBM(これをアジェンダセッティングと言います)だけど、既にAIやクラウドの世界で流れを決定できるほどの力はないのに・・・と。
ところが、今の会社に移って毎日米国の研究者と会話したり、米国での研究のトレンドを勉強するようになると、IBMが提唱していたAugmentationと言う概念は正しかったのではないかと言うようにあらためて感じるようになった。


● 人間の能力を拡張する ●

51reeuvtxzl_sx344_bo1204203200_

AIだけでなく様々な分野で未だに先端を走っていると言われているシリコンバレーで技術の話をすると、よく出てくる言葉が「Augment」だ。例えば、AR(Augmentation Reality)はまさにこの言葉が入っているが、これはリアルな情報と電子情報を重ね合わせることで、人間の視覚や情報処理能力を増強する/拡張するという取り組みをさす。 例えば、人間がパッと見ただけではわからないような複雑な設計をした構造物に対して、データベースに格納された設計情報を付加することで、人間が付加情報と実際の建築物を同時にみることが出来るようになる。これは「視覚」を増強したものだということが出来るだろう。

これだけでなく、ロボットやハードウェアを開発する際にもAugmentationという概念は常に意識されている。日本でもサイバーダイン社などが開発している体につけて人間のサポートを行うようなロボットは開発されているが、人間が装着することにより能力を増強することが出来るようなロボットは「筋力」を増強したものだと言えるだろう。 かように、シリコンバレーで開発されている技術の多くは「人間の能力を高めて、新しいものを生み出そう」という発想がそこかしこにみることが出来る。


一方で日本で技術の話をすると、まずAutomationによる「コスト削減」という話がメインで出てくる。現状で人間が行なっている作業を機械にすると、だいたい何人の労力をロボットがカバーすることが出来るので、だいたい○○円コストを削減することが出来るということである。こういった発想は確かにビジネスにとってはすごく重要だが、これだけでは全体としてビジネスの規模を拡大することは出来ない。いわば、この発想は現在のパイの中で、どれだけ旨味のある部分を取るか・・といった発想に近いのだ。

もちろん米国でもコスト削減のためのAutomationというのは重要なテーマだし、日本のように人口減と労働コスト増大という問題に直面すれば、必ずコスト削減のための技術利用というのはもっと積極的になるだろう。私もAutomationによるコスト削減に意味がないというつもりは毛頭ない。それでも基本的にAutomationというのは「引き算」の発想である。「Automationにより、XX人の仕事を自動化することができるので、YYのコスト削減を測ることが出来ます」というのが、こういったアイデアを検討する際に必ず出てくるビジネスケースというやつである。


● 人間がAIや機会と共存するために ●

日本で多くの企業と話していると、ほぼ必ずといって出てくるのは「人間にしか出来ないことがある」「人間ならではのものを求めている」という単語である。確かにそういうものは今後も相当の期間は消えないだろうし、当面のところは人間のみができること、を、売りにしていくのも一つの戦略だといえる。

一方でそういう主張をする多くの方が「人間にしか出来ないものがある」というバイアスで物事を語っている、もっというと「人間にしか出来ないものがあってほしい」という願望を込めて話しているということもかなり多い。それは時には自社の雇用を守らねばならないという使命感かもしれないし、あるいは機械に自分たちの仕事を奪われてしまうという漠然とした恐怖感かもしれない。具体的に、「何を」「どこまで」「どのようにすれば」機械と人間の仕事を切り分けられるのか・・・ということを考えずに、まず否定の感情から入ってしまい、詳細な分析を行うことが出来ないのだ。


こういった議論をする時に重要なことは、我々人間自体も周囲に存在するテクノロジーによって進化/変化していかという視点を持つことである。例えば、コンピューターが生まれるまで、長い間計算には算盤が必要だったが、今では趣味や教育効果を狙っている以外で算盤を使うことはほとんどないといっていいだろう。あるいは我々の世代にとっては「学ばねばならなかった」タイピングは、1世代下の人間にとっては当たり前の作業となったし、もっと下の世代ではフリック入力が当たり前になってしまって、逆にまたタイピングは「学ばねばならない」ものになった。これを進化と呼ぶかどうかを別として、このようにわずか10年単位で多くの人間が平均的に持つであろうと思われる能力は変化してしまっているのである。


これと同じことはAIがより社会に入ってきた際にも、間違いなく起こる。人間はその裏側のブラックボックスを理解せずとも、慣れとともに納得して利用する生き物なので、今の人間にとって奇異に思えることが、次もずっとそうではないとは言い切れない。
テクノロジーに向かい合う人間や日本企業は、「テクノロジーによって何を実現できるのか?」「それは今の我々の作業(仕事)のどこまでを代替するものなのか」、そして「私たち人間はその変化をどのくらいのスピードで受け入れるのか?」を常に問うべきだと思うのだ。

2018年4月 2日 (月)

イノベーションを少しでも高い確率で起こす方法

私が1月末から勤めているSRI (Stanford Research Institution)は、受託研究開発を主なビジネスとしているのだが、最終的にはお客様と社会のイノベーションを支援するということを目標として掲げている(ビジョンでは、「世界を変えることができるソリューションを生み出す」ことを掲げている)。米系企業というのは、このイノベーションという言葉が大好きで、例えばSRIの前に勤務していたIBMでも、「IBMはクラウドとコグニティブによりお客様のイノベーションを支援する」企業である、といっていた(※1)。

このイノベーションという言葉、日本ではよく技術開発と同義語で使われたり、一方では、技術開発がなくてもイノベーションであるという主張を極端にして「既存の要素を組み合わせて新たな価値を生み出す」のがイノベーションであるという人がいたりと、人それぞれの定義があるようで中々議論が噛み合わない領域だというのが、多くの人が持っている印象ではないだろうか。特に日本においては「カイゼン」の文化が広く浸透しているため、カイゼンとイノベーションは違う/同じだという議論がなされたりする。

イノベーションを研究する学者や学会によっても微妙に定義が異なるので「これが正しいInnovationだ!」という主張をぶつけあうことは宗教論争みたいなものになってしまうためここでは避けるとして、SRIではイノベーションを「新たな顧客価値(==市場価値)を作り出し、市場に送り届けるプロセス」として定義している。ここでいう顧客というのは狭い意味の「製品・サービスを有償で買ってくれる」顧客だけではなく、「自分がしている仕事の成果を利用する人」ぐらいの意味で使っている。なので、いわゆる企業のコストセンターや内部部門にも顧客はいるというように定義している。


● イノベーションを起こすためのフレームワーク ●

先ほど"イノベーションを支援するということを目的としている"と書いたが、ただ闇雲にそういうことを言えば実現するというわけではないし、また、SRIの場合には何かしら特定の製品やサービスを用いて「イノベーションを支援する」というわけではない。むしろSRIは顧客とのプロジェクトを通じて、「顧客の内部でイノベーションを起こすためのきっかけとなる」ことをビジネスとしていると言うほうが適切かもしれない。そのための、フレームワークについて詳細に記述されているのが、本日紹介する「イノベーション 5つの原則」だ。

51fuyoh7fl_sx343_bo1204203200__2

本書ではSRIが実践している、SRI内部、および顧客とのプロジェクトにおいてイノベーションを起こすためのフレームワークの詳細が記述されている(※2)。詳細な内容についてを語るには、結局本書と同じだけの分量が必要となってしまうが、簡単にいうとイノベーションを高い確率で起こすためには、以下の5つの要素を考慮し、それぞれの値を引き上げていく必要がある。


確率 = ① ニーズ ✖️② 価値創造 ✖️③ チャンピオン ✖️④  チーム ✖️⑤ 組織化


上記の式を簡単に説明すると、それぞれの要素は以下のような内容となる。


  1. ニーズ:市場や顧客にとって「重要度の高い」ニーズを明らかにする
  2. 価値創造:「重要度」と「満足度」に注目して、打ち手が生み出す価値を試算する
  3. チャンピオン:イノベーションを内部で推進するリーダー(チャンピオン)を見つける
  4. チーム:イノベーションを完遂させるための人材を集め、適切なコミュニケーションルールを設定する
  5. 組織化:イノベーションを支援する組織体制や文化を醸成する


本書ではそれぞれの要素について、より詳細な内容やどのようにして「要素が高まっているか」を判断するための方法論が提示されているのだが、イノベーションを自分のビジネスで起こしたいと考えている人間にとって参考になるのは、前半部分だろう。イノベーションに結びつくようなニーズの見極め方や、価値創造を行うための理論的な枠組みが提示をされている。

● イノベーションは人が引き起こす ●

一方で、後半になるにつれて「人」の要素が増えていき、勉強して学ぶことができる「フレームワーク」的な考え方は少なくなっていく。例えば、上記にあるようにイノベーションを起こすためには、困難な時にも情熱を持って進めることが出来る「チャンピオン」が必要であるとしているのだが、"どのようにチャンピオンを作るのか"というノウハウのようなものは一切提示されない(※3)。

また、チームの部分についてもイノベーションを促進するため(あるいは阻害しないための)のコミュニケーションについての簡単なノウハウは提示されるのだが、日々どのようなコミュニケーションを行うと、どのくらいイノベーションが促進される・・・といった定量的なデータはない。


結局のところ、本書を読んで最終的にわかるのは「イノベーションをある組織(社会)で起こすためには、人が決定的に重要である」ということだ。どのようなレベルの(あるいは大きさの)組織でも構成員は複数おり、また極めて論理的な人間が多い組織であったり、知性が高い組織であったとしても、イノベーションに対応する反応というのは、最初から全ての構成員が諸手をあげて賛成するということはないと言っていいだろう。 だからこそ、そういった人によって発生する摩擦を乗り越えていくためには、人のパワーが何よりも必要になるのだということを、本書は声高ではなくても強く言っている。

本書に紹介されている方法、あるいはSRIが提供するソリューションというのは確かに「イノベーションを少しでも高い確率で起こす方法」であることは間違いがない。一方で、あるレベルまで論理的に物事が積み上げられていったら、最後の部分はその組織に属している「人」の力になる。であるならば、そういった「人」を探し出すこと、そういった「人」が前向きに進んでいけること、あるいはそういった人に火がつく瞬間を生み出すことが出来るような組織や社会こそが、これからのイノベーションの時代を勝ち抜いていくということなのだと思う。


※1・・・ビジネススクールの笑い話として教授が紹介していたのが、『ビジネススクール出身の人間の描く文書から"Innovation"と"Strategic"を除くと分量が1/3になるというのがある』くらい、Innovationというのは「意味はわからないがなんか凄そう」という言葉の典型だったりする。ちなみに、IBMの時には意味のない言葉として他にも"World class"という単語があげられており、マーケティングではそういう単語を使うのをやめよう・・・という運動がなされていたが、全く定着しなかった。

※2・・・こういったフレームワークを紹介する本の場合、記述していることと社内で実践されていることに大きな乖離があるということがしばしばあるのだが、実際に入社して見て驚いたことに、本当にこのフレームワークを活用してSRIでは仕事を行なっている。

※3・・・本書は米国を主な対象として書かれているので、外部から人材を調達することを除外していない。そういう意味においてはチャンピオンを探す自由度というのは日本のほうが難しいかもしれない。一方で、日本の場合、社員が短期的な業績のみを追わなくてもよいということで、じっくり腰を据えて物事を進めていくチャンピオンを探しやすいという可能性もある。

2018年3月12日 (月)

今から人工知能の勉強を始める人向けにお勧めする2冊

転職する前は、日本で最も有名になったAIソフトウェアのマーケティングを担当していたし、振り返ってみれば大学院時代は遺伝的アルゴリズム(Genetic Algorithm)やニューラル・ネットワークなどの手法を使って研究をしていたので、今ではほとんどコードは書かなくなってしまったとはいえ、AIに関する技術的な基礎というのは一般的な意味ではあるほうだと思う(※1)。

一方で、転職した企業は技術開発を専門に行なっている企業ということで、極端に言うと「AIが絡まない仕事」というのはない。それくらい全ての領域でAIというのは組み込まれてきているし、現状で主に米系クラウドベンダーや日系SIが提供しているような「PCを用いて利用することが前提とされているような」AIというのは、むしろAI利用という観点からは一部でしかないということがわかる。


私が大学院で勉強してた頃はちょうど「直近のAI冬の時代」の終わり頃なので今のようにAIが一般的に盛り上がるというのはもはや隔世の感がある。今では、マーケティングやってる人も製品担当も、とりあえずAIという文言をつけようとしているような状況で、今までとほぼ何も変わっていなくても「AI」と付ければマスコミも取り上げてくれるような状況だ(※2)。ただ、先日も付き合いのある「AIをマーケティングしている人」から、『御社のAIソリューションは日本語が使えるのか?』という謎の問い合わせをもらったように、AIに対する理解という意味では、世の中の一般はまだまだ追いついていない状況だと感じる(※3)。

そういうことで、自分としても2018年の現場までの発展を再度理解しなおすとともに、どのようなステップで話をすればよいかを学ぶために、AIについては基礎から学び直すこととした。今日は、そのはじめとしてまず2冊取り上げたい。
なお、私のポジションは「AIを利用して何かをしたい会社に、研究開発プロジェクトを立ち上げる」というのが現場での役割なので、あまり技術的なことを"自分で"実践することはあまりない(codingをするとかはメインの仕事ではないという感じだし、自分の興味もあまりそこにはない)。


● AI発展の外観と可能性を理解する ●


2015年の出版のため、すでにこの業界ではだいぶ古くなってしまった情報が含まれているが依然として全体を概観するというためには最も役に立つと思われるのが、東京大学の特任准教授である松尾豊先生が出版された「人工知能は人間を超えるか」が、この領域を最初に学ぶには良いと思う。技術的な内容は最小限にして、AI研究の歴史的な内容を概観するとともに、現在起こっていることにどのようなインパクトがあるのかをわかりやすく書かれている。

 

51mwcqyipl

この本の中で特に強調されており、また最も重要なことは、現在のAI研究を牽引している「Deep Learning(深層学習)」が何故にそれほど重要なのかということだ。一言で言うと、この技術を使うことで、AIが「何に注目して学びを行うのか?」を人間が考える必要がなくなるのである(実際にはそんな単純なものではないが)。これまでは、AIに何かを学ばせるためには、人間がその現象を捉えるためのモデルや変数を考えてプログラムしなければならなかったのだが、Deep Learningを利用することでそういった「現象のモデリング」の問題を回避して学習を行わせることが出来るようになった(※4)。


この技術を使えば、これまではAIで取り扱うことが難しいとされていた人間の様々な活動をソフトウェアでコピーすることが出来るようになる。例えば人間だけが出来るような微妙な細工、例えば工芸作品の作成、といったものも理論的には学ぶことが出来る。もちろん実際の世界に結果を反映するためには、ソフトウェアだけではなく、ハードウェアの進化や様々な要素の統合、またAI自体の学習方法の工夫など様々なハードルが残っているが、少なくとも「理論的には」可能であると言うことが何よりも重要なのである。


一方で、2018年の現在から見ると、著者が想定していたことが想定しているスピードで進んでいないこともわかる。特に重要かつ残念なのは、この技術は日本にとって極めて重要であると言う提言があったにも関わらず、日本ではまだまだこの領域に投入されるリソースが足りていないということである。この領域を長年引っ張って来た米国はもとより、急速に力をつけている中国にも圧倒的な差をつけられているのが現状である。その最も大きな要因が、松尾先生がすでに指摘されているように「AIの発展により直接的にビジネスの結果が改善する」産業が日本には非常に少ないと言うことがあげられる。
実際には、日本にはAIとハードウェアの組み合わせにより改善が見られる分野は多くあるのだが、まだまだ経営者の視点がそこまで向かっていないというのが現状だというのが、私の率直な感想だ。とはいえ、私が勤務しているSRIでもこれから少しずつではあるが日本企業のAI活用事例を発表できるようになっていくと思う。すでに遅れてしまっているのは事実だが、あと1年・2年で「なんちゃってAI」ではない、産業現場におけるAI活用は急速に日本で広まっていくはずだ(と期待している)。


● 人工知能開発最先端の現場を知る ●


もう一つは、現在日本で人工知能を産業界で大きく牽引している清水亮さんが(当時の)日本の人工知能開発の最先端を担う方々にインタビューをした「よくわかる人工知能」だ。これも2016年の出版なので、この本が出版された時点から色々と世の中は動いてしまっているのだが、依然として方向性について理解するにはとてもわかりやすいと思う。・・・というよりも、今となってはAIについての変化が早すぎるということを実感するための良書という位置付けとしてもよいかもしれない。

41zrqwbq7kl_3


まず、本書で取り上げられているNVIDIAだが、2017年末には事実上Deep Learning の学習用のGPUではほぼ独占という立場を築き上げることに成功したものの、その地位を利用したライセンス規約変更を行なうという荒技に出た。本書の著者である清水さんもNVIDIAを使わずにDeep Learningをする方法をブログにあげたりと、一時の「NVIDIAさまさま」という状態からはだいぶ変わってしまった。

また、本書の最後で取り上げられていたスパコン開発会社PEZYの斎藤社長は詐欺事件の被疑者として逮捕をされてしまった。本書に記載されている成果とは異なるところでの逮捕のため、成果自体は依然として輝かしいものだが、今後の進歩は遅れてしまうことは否めないだろう。


本書は基本的に「清水さんが話を聞く」というスタイルなので、本人がノッている場面とそうでない場面で、あからさまにテンションが違っているのが面白いところだ。言い換えれば、この本はあくまで「清水さんが見ている世界」を表現しているだけなので、考え方に対してどのようなポジションをとるかは個人の自由である(※5)。そういった意味で、興奮しつつもかなり客観的に書こうとしている前書と、こちらではかなりニュアンスが異なる。それでも、どういった方向性に進むのか・・・といったことを知るには最先端の方に話を聞くのが一番というのは、全くその通りだと思うし、その内容をこれだけわかりやすく噛み砕いてくれる本書は入門書にうってつけだと思う。


※1・・・ここではあくまで一般的な知識レベルと比べてということであって、対象分野を研究している、例えば情報科学専攻を終了した方と比べられるようなレベルではない。

※2・・・似たような状況にあるのがブロックチェーンで、世の中のブロックチェーン・ソリューションのうちかなりのものは、ブロックチェーンを使わずとも実現できるし、Initial Coin Offering(ICO)なんかも、技術的なこととはもはや何の関係もないフェーズに入っているように見える。

※3・・・アルゴリズムという意味ではある言語特有ということはあまりないので「使える」が、日本語向けにチューニングしていると聞きたいのか、それともすでに日本語利用を学習済みなのか、Input/Outputのことを指しているのか、そういったことを明確に切り分けずに「日本語が使えるのか/使えないのか」と質問されても回答のしようがない。

※4・・・ちなみに私の大学院における研究領域は、この「現象のモデリング」である。

※5・・・本書でかなり肯定的にとりあげられている「受動意識仮説」については、自分は批判的である。厳密な意味での「意識」の定義が異なっている可能性があるが、意識は受動的なものではなく、「自分の意識を、自分が感知するまでの時間的な遅れ」があるのではないのか・・というのがスポーツなどの経験からの私の仮説・・・思いつきレベルだが。

2018年2月14日 (水)

Global企業という夢と幻想

先日転職した米系の研究開発企業は全世界でプロジェクトを行なっているものの、支社と呼べるものは日本と米国にしかないため、自社のことをGlobal企業であるといったりはしていない。そもそも雇用契約自体は全て米国の会社と直接行なっているので、今の自分の身分としては100%米国企業の社員である。

一方で、これまで所属していた組織は自社のことをGIE = Globally Integrated Enterpriseと称して明確にGlobal企業であるとしていたし、全世界で40万人以上の社員を雇用していた。一方で、米系らしく意思決定は基本的に米国本社で行い、海外は「現地販売法人」という位置付けであった。確かにこの形は1990年代以降一貫してうまく行く方法であったし、Cloud時代になることで、IT業界はますます開発・生産と販売が分離するように思えるけど、果たしてこれがベストな形なのだろうか・・・ということは、ずっと考えていた。もっと端的にいうと、「Global企業と呼ばれる企業は、本当に"世界で統合された存在"なのだろうか?」という疑問である。


● Global企業とは......? ●

結論から言ってしまうと、現状でGlobal企業と呼ばれている企業のほぼ全ては「Globally operating XXX Enterprise」だと思っている。少なくとも、IT業界においてはほぼ全ての企業がそうだ。XXXには企業の本籍地というか発祥の地名が入ってくる。例えば、米国資本の会社であれば"American"が入るし、"Japanese"が入るというわけだ。

517wybmarl_2


確かに世界中で操業をしている企業は、人種も多様であるし、多くの国籍の人間が働いている。複数の「国家」を市場としているし、情報も常に世界中で共通化されている。それでもほぼ全ての企業は、やはり自分たちが操業された地域というアイデンティティを忘れることは出来ないし、社内の文化も操業された地域の文化を継承するような形で進化をして行くように見える。これ税務対策の面で本社を別の地域に移したとしても変わらないし、数人の幹部を外国人にしたとしても変わらない。システムと文化の相互作用により構築されたアイデンティティはそう簡単に変更されないというのが、自分がこれまで米系企業にいて感じた実感だし、日系企業を調査しても同じような結論となった(※1)。

例えば、日本企業でも代表的なグローバル企業であると言えるだろう「日立」に関しても、経営幹部が日本国籍を持っていない人間になる可能性があると書いている一方で、人材育成に関しては本社人材を優遇するということが、ほぼ無意識的に行われている。日立再生について当事者であった河村元社長・会長の著書"ザ・ラストマン 日立グループのV字回復を導いた「やり抜く力」"を読むと、若手に修羅場を経験させるために海外に送り出すようにしている・・・という部分があるが、この著書を読む限り日本本社に入社した人間のみを対象としているように見える(※2)。


● コストの最適化か、それとも人材の最大活用か●

世界中でビジネスを行なっている米系企業であれば、そこで働いている社員は程度の差こそあれほぼ英語を話すことが出来る。日系企業でも現地法人の幹部クラスになるとある程度の日本語が話せるというのも、普通に見られる話である。なので、少なくとも言語という観点からは、本社の人間を優遇する必然性というのはどこにもない。


では、なぜ本社の人間のみを優遇するようなシステムが出来上がるのか・・・というと、最も合理的な回答は単純に「自国民でない人間を大量に活用すると財務・経理面でも、法律面でもコストがかかる」ということがあげられる。まず単純に違う国の人間を働かせようとすると、移動費やら保険やら、その他生活面でのサポートということで追加のコストがかかることが多い。完全に同じ条件を提示したとしても、ビザ取得というコストがかかる。そもそも、日本はもとより、移民に極めて寛容と思われる米国でも、ビザ取得というのはそれなりに大変な手続きが必要なのだ。やはり、雇用を守るというのは極めて重要な問題なのだ(主に政府にとって)。

次に予想される回答としては、外国人が大量に意思決定レイヤーに入ってくることは、組織の文化として難しいということだ。日本でも一時上級幹部クラスに大量の外国人(日本国籍以外)を採用しようとした会社があったが、やはり文化や慣習が違うということで頓挫してしまった企業があった。どんな開かれた会社であったとしても「XXという国から生まれた会社なのだから、XX人以外から命令を受けるのは嫌だ」と思う人間は一定数いるだろうし、個人としてはそれは自然な感情だと思うので、組織の維持という観点からはそういった文化的な慣性が存在するということを無視しないのは合理的であると感じる。


一方で、ある企業に所属している人材の能力を最大活用しようとすれば、海外現地法人にいるような人間を積極的に登用することは理にかなっている。スタートアップ企業やハイスピードで成長を続けている企業の場合には当てはまらないが、いわゆる大企業と呼ばれる企業の場合、実感値としては新興国で入ってくる人材のほうが、本国で入ってくる人材よりもレベルが高いということは普通に起こり得るだろうと思っている。

日本でもそうだが、本当に優秀な層というのは給与が極めて高い職業やスタートアップといった職場を選択する傾向にあり、大企業がなかなかそういった尖った人材を採用することは難しい。一方で、新興国では国内産業が弱かったり、地縁血縁が求められて実力だけではのし上がっていくことができない場合があり、優秀な人材がGlobal企業を選択することは普通にある。そういった場合に、本社で採用された普通の人間よりも、現地の最優秀層のほうが優秀であるということは特別驚くようなことではないと思う。


そもそも環境的にチャレンジングな場所で、かつ語学の壁を超えて学んできただけあって、新興国の優秀層というのはポテンシャルも非常に高い。そういった人間により挑戦的な場所を提示するというのは、人材活用の最大化という観点からは合理的と思えるが、これまでそういった実例というのはほとんど聞いたことがない。


私も前の米系企業を選択するには、GIEというコンセプトに惹かれ、また面接においても繰り返しone firmであるということが言われていたために、実際に入ってみるとそのスローガンと実際の運用の差にじぶんとがっかりしたものだ(今から考えると随分青臭いな・・・と思うのだけど、こういうことは経験しないとわからないので仕方ない面もある・・・はず・・・)。

テクノロジーが進化してどんどん世界は小さくなる一方で、まだまだこういった職場における人材活用というのはそれほど変化がないように見える。これまで、本日取り上げたような「多国籍企業における人材マネジメント最大化」といった文脈での研究や、うまくいっている事例というのはあまり見たことがないのだけど、日本人の労働人口が減り、相対的なポジションが弱くなっている現状では、他国の優秀な層を積極的に「本社で」活用するというのは一つの方法論になるのではないかと思っている。本当は10年前ぐらいに始められればよかったのだが・・・・。


※1・・・もちろん企業ごとに濃淡というのは当然あって、例えば米系IT企業でも東海岸にある企業よりは西海岸の方がより多様性があるという印象を受けたし、インフラ企業よりはWEB・アプリ企業のほうがより多様性が大きいという気がする。
※2・・・よく知られている例でいうと、GEのLeadership programは世界中から優秀な人間を選抜して数年間かけて育成を行う。ただ、各国から選抜されて育成された人材は基本的には各国に戻り、そこでリーダーとなることを期待されているようだ。

2018年1月29日 (月)

MBA留学時の借金返済完了

先日MBA留学時に借りた留学資金(ようするに借金)の返済が終了した。MBA生活が始まったにが2011年8月だったので、返済完了までざっと6年半かかったことになる。当初の予定では5年で全額返済を予定していたのだが、結婚・帰国・結婚式・子供の出産とお金がかかるイベントが次々とあったため、予定よりも1年半ほど遅れて返済が完了した。資金を出していただいた方々には、あらためて留学資金を貸してくださったこと、そして返済を待っていただいたことにこの場で御礼申しあげたい。

今回はせっかくなので、MBA留学資金について簡単に書いておこうと思う。


留学資金のファイナンス

MBA留学は高い。米国では2年間で1,000万円を大きく超える金額が必要になるし、米国に比べて安価だと言われているアジアMBAでも学費と生活費をあわせると、2011年入学の自分でも全体で900万円がかかっている(詳細は以前ココに記載した)(※1)。僕のような私費学生にとっては、MBA留学のROIを考えるのはもちろんのことだが、まずはその投資費用をどのように工面するかを考えなければならない。

私費留学生の中には実家の支援を受けることができる人とか、遺産が入ってきたのでお金のことは考えなくても問題ないという人もいるが、普通の人はだいたい次の方法を組み合わせて資金を準備する事になると思う。

  1. 留学までに溜めた資金(いわゆる自己資金)
  2. 公的機関からの借り入れ(※2)や給付
  3. その他の借り入れ

その他の借り入れで最も取りやすい選択はフリーローンを使うということだろう。これはそれほど金額が大きくないが、継続的な収入があれば使うことができる。他にもクレジットカードの与信を使うという方法もある。社会人だと数枚は持っていることが多いので、かなりの金額を集めることができる。この方法のネックは金利が結構高いことだろうか。

この他の方法としては、僕が使った方法でもある「友人から借りる」という方法がある。僕の場合は中国にいて、しかMBA直前はベンチャーをやっていたということで他の方法を選択できないという理由でに、いわば消極的な選択だったが、先立つものがなければ留学もできないわけで、これまで積み上げてきた人脈に頼ることにしたというわけである。


個人から借りようと決めた際に考えた方法論は以下のようなものだ。

  1. 個人間とはいえ担保なしで借りるわけなので、最低限の利子は設定する。
  2. 一人から多額を借りようとすると難しいが、小分けにすれば貸していただける人は増えるはず。僕の場合は一口50万円でお願いをした。
  3. 借りたい金額の3倍ぐらいの「お願いリスト」を作成する。

まず1については利率が決定していない時に適応される5%でお願いをした。担保なしなのでかなり小さいが、個人間の場合は利率を高くすれば貸していただけるというわけではないので、失礼に当たらない程度の利率を設定した。

2については、当たり前といえば当たり前なのだが、「500万貸してくれる人を頑張って探すよりも、50万で多い方が楽だろう」という想定で声かけをした。僕の最初にいた会社は長い間非上場だったのだが、当時は数年以内に上場をすることが想定されており、50万ぐらいであれば迷惑を感じずに貸してくれる方が複数いたのと、中国生活でベンチャーキャピタルなどの比較的お金に余裕を持つ方に出会うことができたという幸運から、この作戦はうまくいき50万円ぐらいなら問題ないよ、といっていただける方をたくさん見つけることができた。

3については、これも営業をしていた人間にとっては当たり前の感覚なのだが、最初のお願いで"Yes"といってくれた方の全てが実際にお金を払っていただけるわけではないだろう・・・ということで、実際に必要となる金額よりもたくさんの方に当初からお声をかけることにした。実際に、お酒の席では「そんなの問題ないよ」といってくれた方でも、いざお願いにいくとやっぱり担保なしでは難しいという方もいたし、ちょうど新しい事業をしたいから現金は一円でも多く確保しておきたいという友人もいた。 そもそもお金の貸し借りというのはただでさえ人間関係を壊しかねない話なので、最後まで気持ちよく貸していただける方に借りる方がどちらにとってもよいことであり、不必要に必死にならないためにも、この作戦はうまくいったと思う。

結果として、僕は友人にも恵まれ無事に必要な金額以上を集めることができたし、冒頭に書いたように無事に全額利子付きでお返しをすることができた(※3)。ちなみにビジネススクール後に就職活動中にこの金策方法を人事部に話したら、大変爆笑&感心されて、そのまま内定をいただくというウルトラCを実現したこともある。


実際に払い終わってみて感じることは、MBAに行くための条件として資金が必要とされている以上、お金を準備するということはGMATの点数やエッセイを書くのと同じように「MBAヘ行くための資格」だったということだ。
私費はどうしても資金面でハンデがあるとはいえ、ビジネススクールにいって何事かを将来に向けて得たいと考えるのであればお金を集めることぐらい当然の話で、逆にいえばそのお金を集めることもできないのであれば、留学はしないほうが正解なのではないかと思う。
企業をmanagementするという際にやはり資金調達や獲得といった分野が極めて重要であるように、自分という人生をmanageするのであれば、必要なお金を必要なタイミングで集める能力も求められるのではないか・・・と、そんなことを実際に返済が終わった今となると感じている。


※1・・・ここには結婚生活に向けた準備費用や帰国費用、帰国時の日本での住居費用などが含まれている

※2・・・社会人を経験してから再度学び直したいという人向けに国の教育ローンとして300万円を借りることができる。ただ、ここから10%が自動で補償金として取られてしまい、かつ親の名義で借りる必要があるということで使い勝手は悪い。フルブライト奨学金といった給付は枠が狭いので、誰でも使えるというわけではない。

※3・・・何人かの方には結婚・出産祝いということで利子を免除いただけるということまでしていただいた。お礼を十分に述べることができないぐらい感謝しております。

より以前の記事一覧