ここ数週間ほど北京オリンピックの聖火リレーに関して、いろいろな問題が起こっていることが日本で報道されているようです。上海に住んでいる僕は基本的には日本のBS放送しか見ることが出来ないので、妨害に関するニュースはもっぱら日本語ブログとYou Tubeで見ることにしています。
中国でも聖火リレーのニュースは繰り返し取り上げられていますが、沿道でのデモや妨害活動がニュースに入らないように、ものすごいランナーをアップにして撮影しています。だいたいの場合顔しか入っておらず聖火は映っていないので、下のテロップを見ない限り聖火リレーの中継だとわからないことも多いような状況です。
僕は、実はこの国に来るまでは、ほとんど僕はアジアについて興味を持っていませんでした。理由は・・・トイレが汚そうだから、絶対行くことはないと思っていた、から。。
それが何かの間違いかハズミで上海に来ることになって、この国に住むようになり、そして上海という街を好きになることで自分の中でアジアを見る新しい視点が育つようになると、日本での報道やブログでの主張と今この国で起こっていることの僕の解釈の違いに驚くことが増えてきています。
それは、僕が比較的この国に好意的であり、一般的なネット世論がその反対であることを割り引いても驚くべきほどの差があるものだと思っています。
ちょうど、本日の日経ビジネスオンラインでも取り上げられていましたが、中国はまさしく『資本主義的』な経済成長の真っ只中にいます。
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昨日のエントリーでも書いたようにごく普通の労働者が高給をもとめて転職を繰り返したり、お金が集まる都市として上海には次々と人が流れ込んできています。上海市内の大学ではMBA講座がもうけられるようになり、知的労働者階級は少しずつサービス業へのシフトを進めつつあります。
しかし当然のことながら上海でのこの好景気は中国のほんの一部を写すものでしかありません。地方に行けば依然として日本円にして15000円程度(1000元)で暮らす人がたくさんいますし、上海市内においても仕事を手に入れることが出来ない多くの浮浪者や、その日暮らしの肉体労働者がそこかしこで見ることが出来ます。我々の会社があるのは上海の銀座と呼ばれる淮海路ですが、ちょっと南にいくか、あるいは西に行けば昔ながらのボロボロの家屋が軒を連ね、40代を超えた夫婦がすごしているのです。
このような急激な発展とゆがみが、経済的な格差を生み出していることは間違いありません。しかし、私がこの国にいて感じるのは経済的な格差そのものよりも、経済的な格差によって生まれる知識的・精神的な格差のほうがはるかに大きな問題であるということです。
およそ同じ中国人といっても上海で高額所得を得ている人と、地方で農民として生活している人間では同じ国の人間とはもはや言うことが出来ません。もちろん根底としての中華思想は日々感じますが、高額所得を得ている人や(おそらく)政府高官たちは現実をほぼ直視し、中国の矛盾を理解していると思います。マスコミ報道や政治的なメッセージを発する人たちが、現実を理解していないと想うことのほうが非現実的であるといえます。
一方、農民や低所得者層にとっては、国際政治の理解などは問題の存在すらも理解するのが困難なことでしょう。彼らにとって重要なのは、明日の食事であり、よりよい生活なのです。
このような大きな格差と中華思想が合わさった結果の一つが、今起こっている(およそ効果的とは思うことが出来ない)オリンピックへの対応であると、僕は考えています。ほとんどの政治的なメッセージというのは、「対外・国際政治」ではなく「党内・国内政治」向けの発言ではないかと思うのです。
もちろん、この国の体制は中国人自体が選択した体制でもあるのですから、現在をもたらして責任は彼らに帰すべきであると思います。しかし、一方では中からみた場合、本当にこの国のことを考える(相対的にあまりにも数は少ない)一部の人間からすれば、もはや手のつけようがなくなっていることもまた事実であると思います。
そのように考えた場合、現在起こっている一部暴力的な抗議行動は、単に「罪を糾弾する」だけのものであり、創造的な解決にいたるとは言うことができません。現状のままとどまることは許されないにしても、拙速な対応はこの国をより硬化させるだけなのです。
いずれ詳しく書きたいと思いますが、現状で抗議をしている人たちが望む世界を作るためには、この国内政治の状況を理解するのが鍵であると確信しています。そして、そのためにはより中国全体が富む状態を作り出すこと、言い換えれば経済発展が地方に進んでいくというのが重要であると僕は思っています。
中国で外国人として働いている僕の視点からすると、より建設的な問題解決のほうが未来を作るにはふさわしいと思うのです。
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