意思決定のスタイル その② -『頑固』と『意思が強い』の差-
退職が決まってから、ずいぶんとゆっくり仕事をしていたので(だいたい9:30~18:00で仕事、その後はジムで走っていました)、昨日みたいにちょっと長く働いたぐらいで、朝は早速寝過ごしてしまいました。新しい会社に来て、すぐに仕事が見つかるというのはいいことではあるのですが・・・。リハビリなしでいきなり100M走を走り出してしまったようなものです。人生はマラソンだというのに。
ということで、本日からは早くもお客様をもって本格的な仕事に入ったのでした。
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昨日のエントリーで、私の意思決定においては3つの軸があるということを書きました。
その中で、もっとも根本的にあるものが①の優先順位付けの軸であり、この考え方をつきつめると極限思考になるというところまでを書きました。今日はその続き・・。
さて、僕がいうこの極限思考というのは、2つのことを指しています。
①複数の要素があったときに、極限状態では優先順位をどのようにつけるのか?
②極限まで条件が進んだときには、どうなるのか?
①の意味は、『昨日のエントリーに書いた「優先順位」を極限まで進めるとどうなるのか?』ということです。だいたいいつも考えるのは、次のようなシチュエーション。
崖から落ちそうになっている人を両手で支えている。片方にはAさん、片方にはBさんがいてどちらかしか助けることが出来ない。どちらを助けるべきか?
まあ、よく映画であるようなシチュエーションですね。ちなみに昔、友人にこの話をしたら、「そんな不幸を考えるんじゃなくて、双子の女の子の両方から付き合ってくださいといわれたら?」にしたら・・といわれました。ちなみにその場合には『両方と付き合う』が正しい解だと言い張っていましたっけ・・。
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②の極限とは、ある条件 -たとえば投入資源や時間- を無限大まで大きくしていった場合に、どうなるかということを考えるということです。
よく仕事をしているとぶち当たるのが『今は追い風だから、人は何人いても足りない。どんどん採用しよう!』という言葉です。じっくり考えると、いやほんの数秒考えただけでも、実際にはそんなことってありえないですよね。マーケットには必ず上限値があって、いつかは資源投入に対する増加割合は0になるはず。
だいたいにおいてこういう台詞は”勢いをつける”ために使うのであって、実際には頭には妥当な数があるはず。
ただ、この「妥当」な数というのが人によって違うことが多いんですね。そこで、出てくるのが極限思考です。
ある条件を可能な限り増加(あるいは減少)させることで、どのようなことが起こるのかを、ある地点を出発点として考えていくのです。
これは数学的にいえば「関数の形」がどのようになっているのかを想像することとほぼ同じです。実世界の関数はだいたいにおいて凹凸があるものですから、このような思考方法を用いることで、どこが最適値かがなんとなく推定できるのです。
また、この極限思考は「起こりうる可能性を可能な限り想定する」という発想にも通じています。極限状態というのは、普通は起こりえないことを想像してみるわけですから、普通の積み上げ式の考え方では想定されないような事象を考えます。
僕はシステムに関連する仕事をしていたので、インフラ設定などの場合にはこういった考え方をすることが非常に役に立っていました。たとえば、
といったことを想定するわけです。実際にはそんなことが起こる可能性はほとんど限りなく0に近い。ただ、この事象と確率をかけあわせたことを考えておくのが、意思決定をするにあたっては大きな役に立つと信じているのです。
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この極限を考える思考方法は、大学で理系の勉強をしたことが大きく影響をしていると思います。大学の理系(数学・物理)ではコンテクストは違うものの、t→∞やx→∞について考えることがとても重要になります。数学では厳密性を高めるために、物理ではシステムの挙動を予想するために、無限大を考えなければならないのです。
この厳密性やシステム挙動というのは、積み上げ式の思考方法では決してたどり着くことが出来ないものです。思考方法には一般的には演繹法と帰納法がありますが、何かしらの原理を定式化するためには、帰納法だけでは非常に難しいのです(なぜなら、「ない」ことを証明するのはとても難しいことですから。悪魔の証明といわれています。)
一方、法学で大学院までいった友人と話をしていたところ、法律を真剣に学ぶと、やはり同じような「極限状態」を考えるようになるそうです。法律というのは、ある一定の状態を想定して作るものですから、制定する場合にはその「想定外」を想定して作る必要があるというのですね(想定外を想定するっていうのも変な感じがしますが・・・)。じゃないと抜け穴だらけになって、解釈だらけになってしまうからだそうです。
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日本人はよくリスク管理が下手といわれますが、僕はこの「極限思考」というものがあまり得意ではないからだと思っています。多様化が進んだとはいえ日本社会はかなり均一性が高い社会です(中国にいると本当にとそう思います)。そんな常識を外れたようなことはしないし、そもそも考えたりもしない。その「考えたりもしない」人たちがある割合を超えると、そこを考えるほうがコストが大きくなってしまうのですね。
ただ、今後日本人・日本企業、特にサービス企業が海外に出る上では、この極限思考がかかせないと思います。想定できないことを想定しきる力が求められるようになると思うのですね。
さて優先順位をつけて、極限まで可能性を考えたとしても、そこには方向性をつける目的地がなければ意思決定は出来ません(①の軸は、優先順位をつけるということを意味しますが、”どの方向で”優先順位をつけるかを決めてはいません)。そこで、重要になってくるのが目的志向です。
この話については、また明日・・・。
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