【書評】操作されるメディア、情報、そして立ち位置 -戦争広告代理店-
この本をこのタイミングで書評するのは、本当にただの偶然です。ですが、何らかの「縁」を感じざるえないのもまた事実です。
今回紹介するのは、1990年代に展開されたユーゴ紛争の裏側で、自陣営により有益な世論がつくられるように活躍したPR会社を取り上げたドキュメンタリーであるドキュメント 戦争広告代理店 (講談社文庫)です。
ユーゴ紛争の時には私はまだ中高生でしたし、日々の部活動やら勉強やらが忙しくて正直言うとほとんど記憶に残っていません。塾の帰りに寄った本屋で思わず見つけて不思議な本だと思ってサラエボ旅行案内―史上初の戦場都市ガイドを購入した記憶があるぐらいです。
その意味では今回とりあげた本は「へえ、あの出来事の裏にこういうことがあったのか・・・」といった感慨を感じるのではなく、出来事自体を新しい知識として手に入れている・・という感じがしました。
本書でメインとなるのはアメリカのPRコンサルタントの活動です。2000年の一桁ももう終わろうとする今では、インターネットの発達によりPRの方法はずいぶん変わってしまったと思うのですが、エッセンスは変わらないはず。本書で明らかにされるのは、自陣営にとっていかに有効な「本当の情報」をメディアを使って広めていくか・・・そのための細かな手法とその結果としての国際世論の変化です。
本書の主人公の一人であるPRコンサルタントは実にきめ細かな方法で、少しずつ自陣営(ボスニア側)に有利な情報を広めていきます。例えば、ユーゴ紛争以来完全に市民権を得た『民族浄化』という言葉
の使い方などは、情報が少しずつ独り歩きをしていくさまをリアルに描くと共に、『ホロコースト』という欧米人にはトラウマとなるような言葉を使わずに同じ衝撃を与えるという意味において、情報の取り扱い方のお手本とすることができるでしょう(日本の政治家はすぐにナチスとかホロコーストという言葉を使いますが・・・彼我の差に愕然とします)。
この本を読むと、メディアが少しずつ自律的に一つの方向に向かっていく様が手に取るように実感できるでしょう。そして、それは日本人のすぐそばで、今も起こっていることなんだと・・海外にいる僕には思えるのです。
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