『メタ』はハイコンテクストな文化でないと楽しめない -:名探偵の掟-
毎回日本に帰ると、東京都内の手近の大きな本屋に必ず立ち寄るにことにしています。東京駅近くなら丸善や八重洲ブックセンター、有楽町なら駅前にある三省堂書店など。他にもだいたい日本では大きな駅には本屋が併設されているので、時間があるときには(ないときにでも)必ず入るように心がけています。
今や日本で売っているベストセラーはネットでだいたいチェックすることが出来ますし、僕のRSSには多くの書評サイトが登録されているので、ほぼ100%ベストセラーの出版状況を追うことが出来ます。その気になれば、Amazonなどで簡単に購入も出来ます。
ただ、やっぱり本屋が好きなんですよね。何が好きって、あの本屋の『ちょっと空気を切り取ってます』的な雰囲気がたまらない。だいたい世界中どこでもそうなんですけど、本屋ってその国にいないとわからないネタが転がっているものです。例えばドラマのノベライズとか、ローカル有名人の自伝だったり、プチ流行の解説本だったり、それから賞がらみの本だったり。
やっぱりそういうのは圧倒的に『現地』にいかなければわからないんです。
で、だいたい目的も決めずにぶら~っと本を見て、数冊を買って帰ってきます。本当に必要だと思っている本は大体事前にホテルにAmazonで購入していますからね。本当に目についた本を買ってくるんです。で、本日書評するのは、その中の一冊。どうやらドラマ化をきっかに新装版の文庫本が出たらしい、東野圭吾さんの名探偵の掟 (講談社文庫)です。
東野圭吾さんの本は、『悪意 (講談社文庫)』とか『どちらかが彼女を殺した (講談社文庫)
』なんかは結構昔に読んだんですけど、ここ数年はとんとご無沙汰しています。・・・というか、大学院ぐらいからお金もなかったし、何か時間がもったいない気がしてほとんどミステリは読むのをやめてしまったんですよね。また、読み直そうかなぁとなったのは中国に来てから。ず~~~っと仕事ばっかりだと体も心も持たないよね、と思い出したからでしょうか・・(社会人生活が3年過ぎてちょっとバランスを取り出したというのもあります)。
文庫本というのはちょうどスーツのポケットに入る大きさですし、この本は短編集なので気楽によめるな~と思って買ったのですが、なんのことはなく帰りのバスと飛行機待ちの時間とあっという間に読み終わってしまいました。内容が軽かった・・というわけではなくて、面白かったからなんですけどね。
この本、ミステリ好きならそれなりに誰でも楽しめると思うんですが、やっぱり一回は一通り本格モノを楽しんだことがある人のほうが圧倒的に楽しめると思います。何が面白いって「ミステリのお約束」をメタ(一次元高い視点)から突っ込んだり、壊したりするところで笑えるかどうかで面白いかどうかが分かれると思うのです。やっぱりそのためには一度は「お約束」にどっぷり使ったことがあるほうがいいなじゃないかなと思います。
一歩はなれた見れば面白い・・ってことは結構あるものなんですが、同時にその面白さがわかるためにはある程度その文脈がわかってなければなりません。例えば「二時間ドラマ」のあたりなんて、日本人じゃないと絶対わからない面白さでしょう。例えばこの本を日本語がものすごく出来る中国人に読んでもらってもやっぱりわからない。なぜなら、この「お約束」==コンテキストは日本人でないとわからないからです。
先ほどドラマ化にあわせてこの文庫本も新装版が出たといいましたけど、こういうメタ作品が地上波のドラマになってしまうというのは、実はとてもすごいことなんです。本格にどっぷりつかったことがない人でも楽しめるってことは、逆に言うと「日本人は基礎的なミステリ知識を"誰も"が持っている」ってことですからね。中国人なら誰でも三国志を知っている・・みたいな感じで、日本人はミステリの文法を知らず知らずのうちに習得して島手いるということなんだと思います。
昔、日本の出版界が元気になるためには、もっともっと海外への翻訳モノを増やしていかなければならない・・っていう話を見たことがありますが、今日いっているようなことを考えるとちょっと簡単じゃないな・・って思います。どんな小説でも固有のコードというか記号があります。それがどのくらい「私達にとって自明」だけど「海外のひとにとって自明じゃない」というかを考えないと、とりあえず翻訳してみたのに全然面白さがわかってもらえないなんてことも十分に起こりえますものね。
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