欧米IT三大企業の採用活動と戦略の違い -Apple, Google, そしてMS その1-
中国における外資系IT系企業のBig3といえば、おそらく世界中でほぼ同じようにApple(苹果, Google(谷歌), Microsoft(微件)である。他の国であればここにプラスしてFacebookとAmazonが入ってくるのだろうが、ご存知の通りFacebookはアクセスが禁止、Amazonも営業ライセンスの関係でAmazonブランドではなく桌越网というブランドで展開をしている(ただし、URLはAmazon.cnだし、Amazonというブランドも出ているので事実上は一体化している)※1。
この3企業はそろって自分の在籍しているCEIBSにリクルーティングに来たのだが、その内容から彼らの企業姿勢・中国への戦略の違いというものが見えたので、今日はその話をしたいと思う※2。
■ 生産地にして消費地:Apple ■
Appleといえば今や世界最強企業の一つであり、中国でもTOPブランドである(ちなみに世界で一番早くiphone5(もちろん偽物)が出たのは中国である。iphone4Sの発表前にすでに広告を出しまくっていたのに、見事にはずしてしまった)。そのappleがリクルーティングにくるということで非常に期待していったのだが、いい意味でも悪い意味でもApplerらしい内容で見事に期待を裏切られてしまった。
まず第一に、彼らが求めているのは完全な「経験者」であることが期待外れだったことの一番の大きな理由だ。MBAというのは大なり小なりキャリアチェンジをするために来ている学生が大多数を占めるので、該当ポストの過去経験がないと採用しません・・というだけで、大多数の学生は対象外になってしまう。
これはAppleという会社がTOPブランドであり、世界中のタレントたちがしのぎを削る場所であるということとは無縁ではないと考えている。Appleが欲しいのはエキスパートであって、「卒業生を育てる」というのはAppleがすべきことではないというメッセージであると感じた。もちろんアメリカ本土にはApple universityの計画があるように、Appleという会社が従業員教育へ関心がないわけではない。しかし、世界中に広がるネットワークの中で中国という地域ではprofessionalしかいらない(これは育てる余裕がない、ということでもある)ということである。
次に驚いたのは、社内が完全に「生産側」と「消費側」に分かれており、相互の人事異動は「ほぼ0」ということだ。欧米企業というのは部門別採用をしており、部門間の異動はないというイメージがあると思うが、MBA採用のように「ジェネラリスト採用」の場合、会社に入った後に部門間の異動というのはしばしば行われる。
しかしAppleの場合、そもそも社内の構造が「生産側」と「消費側」に分かれており、もちろん一つの会社ではあるものの、人事構成などは完全に別組織になっているとのことであった。
どうしてこのような体制になっているのか・・という説明は一切なかったのだが、自分の推測では、これは中国が「生産地」と「消費地」という極端な両側面を持っているからだろうと思う。
Appleの製品と言うのはかなり部分が中国で生産されており(ちなみに最大のアセンブリ企業はフォックスコン)、利用している部品のかなりの種類が中国の工場から直接アセンブリに供給されている。
ただし、この状態と言うのは未来永劫続くわけではなく、人件費の高まっていること、しばしば労働環境が悪化すること、そして環境対策などでAppleのような有名企業は標的とされやすいということから、どこかのタイミングで生産拠点は他の国に移動することになるだろう。その場合、極端な話をすれば中国のApple生産部門は御荷物となってしまうわけで、組織を分けておけば縮小・撤退も容易である。
一方、消費地としては既に現在においても中国はApple製品が世界で二番目に売れている国であり、今後もその重要性はます一方である。上海でもつい先日南京东路にアジア最大のApple storeが開設されたのだが、今後は上海・北京という二大大都市だけではなく、重点都市+一級都市にも少しずつ販売網は広がっていくだろう。
そう考えると「消費地」としての中国の価値と言うのは、生産地としての価値よりも長く続くわけで、ある段階でApple Chinaは営業とマーケティングだけを行う組織・・としてしまっても、十分にAppleとしては合理的なわけである。言いかえれば、生産地としては既にピークを過ぎてしまったが、消費地としては立ち上がり段階、これからピークを迎える地域であるということである。
以上は僕の勝手な推測だが、Appleが極めてドライな会社であることを考えると、そんなに外れてはいないように期待している※3。MBA学生というのは僕も含めて、楽しい学生生活と夢あふれる就職活動を想像しているわけだが、そこに現実を見せ付けられたような気がした。
Professionalが冷徹な判断で運営をしていく、それが僕がリクルーティング活動野の話からうけたAppleのイメージである。
(長くなったので、次回に続く)
※1・・・ちなみに中国IT三大企業と言えば、Tencent(腾讯)、Alibaba(阿里巴巴)、baidu(百度)である。
※2・・・以前は会社名を書けないとしていたのだが、school側に問い合わせたところ社名はOpenにしている情報なので問題ないとのことで、セッション内容もOKとのこと。ただし、個別情報になるのでどういったポストが行われているかは今後も書きません。
※3・・・製品やMarketingから受けるイメージと違って、Appleと言う会社はexcitingだが疲弊する会社・・というのがmiddle manager以上の一致した見解だと思う。
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