MBAで日本企業はどう見られているのか?
CEIBSではほぼ全ての授業でCaseと呼ばれる練習問題(というか短い論文)を読んで勉強を進めていく。このCaseというのは、ただ練習問題をやるというわけではなくて、ちゃんと世界各国のMBA Schoolにいる教授(またはケースライター)が現実の企業の戦略や行動を調査したうえでまとめている。基本的には会社名は実名で出てくるので、学生たちはそのケースを読む時には、実際に過去の該当企業がやったこと、あるはやったことの結果をネットで調べることが出来るのだ。
Caseを使わないような授業であっても、MBAでは単純に理論だけを勉強するということはほとんどない。ほぼ必ず、現実に適用した場合にはどのように考えなければならないのかということを問いかけられるので、授業では頻繁に多国籍企業の名前が登場する。
CEIBSはアジア(中国)にある企業なので、なるべく中国やアジアの話をメインに持ってこようとする※1。中国経済の歴史と言うのは実質的には30年なので、Caseで取り上げられるような企業と言うのはまだそれほど多くはない。ということで、取り上げられるの日本企業と言うことになる。
■ 日本、そして題材となる企業たち ■
日本が取り上げられる際に、真っ先に言及されるのは90年までの急成長と、その後の失われた20年間である。マクロ経済学の授業では丁寧にもGDPの移り変わりと、日本がそのまま伸びていたらと仮定した図が用意されており「あのまま行けばアメリカを抜いたかもしれない」という話を教授がしていた。
中国は現在世界第二位の経済大国になったわけであるが、日本という地理的にも文化的にも(比較的)近い国家がどのように成長し、そしてどのように低迷したのか・・というのは彼らの興味の対象となっている(そして、なぜかと聞かれて困るのであった)。
一方企業はどう取り上げられるのかというと、Caseの場合にはおもに1990年から2005年ぐらいの期間の話が取り上げられており、また事例がどうしても欧米に寄りがちなため、それほど「成功した企業」という例で出てくることはない。授業中に教授が言及するのがメインなのだが、皆ほぼ企業名を知っているためイメージがしやすいということがあるのだろう。
[トヨタ]
トヨタはinnovationの代表例として言及されたことがある。トヨタが成功したinnovationとは「プリウス」で、車の低燃費化と環境対策を一気に進めるきっかけとなった・・という評価をされていた。
[ソニー]
経済学のゲーム理論の演習で、ソニーとサムスンがテレビ開発を行うに当たりハイテクとローテクのどちらに投資すべきか?・・という設定で取り上げられていた。どちらもアジアにあるテレビメーカーと言うことで取り上げられたものと思われる。
ゲーム理論で得られる利得は完全にでっち上げのはずなのだが、なぜか教授が「ではこのゲーム理論から過去の戦略についてはどのように考えられるだろうか?」という問いかけをしたため、ソニーの戦略は成功だったのか失敗だったのかという議論に話が飛んでしまいしっちゃかめっちゃかになってしまった(そもそも利得関数が想定値なので議論の意味はない・・と言おうと思ったが面倒くさいのでやめた)
[マクドナルド]
Marketingの授業でフランチャイズ(代理店)を利用するか、直接販売を行うか・・という議論を行った時に、日本のマクドナルドが取り上げられた。マクドナルドというのは基本的には直営なのだが(中国でも基本は全て直営らしい)、日本では戦後藤田商店が長く日本の独占契約を結んでいたということと、2000年代になり直轄契約になるという事例がユニークであるということで言及されたのだ。
ただし授業では「直轄契約にしたのは日本があまりにも独自の商品開発を行っていたから」と理由を説明したのだが、実際にはそれだけが理由ではないので、この表現は誤りである。またそれに関連して「例えば日本では寿司バーガーがあるかも?」と言われたので、即座にそれは否定しておいた。しかし月見バーガーはあるんだよね。。。※2
[オリンパス]
これは本日参加した「The Job of the CEO…and How you Get it!」という特別授業(学外のビジネスパーソンが来て話をしてくれる授業。以前にもこういう授業があった)の中で、ヘッドハンターファームの方が質問に答えた時にオリンパスの名前が出てきた。もちろん、現在進行中の事案関連での言及である。
質問は「グローバルカンパニーでも発祥国民以外の人間がCEOになるのは難しいのではないか?」というもので、確かに難しい・・という例として日本がとりあげられたのだ。回答者は2000年代以降の日本のグローバルカンパニーでは15人の外人がCEOになったが、2人しか残っていないということと併せて、そういえばつい最近オリンパスのCEOもクビになったという表現をした※3。
■ グローバル化するとはどういうことか ■
MBAにいると企業がグローバル化するというのがどういうことか・・というのが実感として理解することが出来るような気がしている。
企業がグローバル化するというのは、極端にいえば「自国以外で多くの人がその企業の行動を当たり前のように知っている」ということに他ならない。日本にいて、日本の新聞を読み、日本のテレビを見ている限りにおいては日本企業の不祥事というのは、なんとなく遠い出来ごとに感じる時がある、しかし一歩海外に出ると、こんなにも多くの人が日本企業について知っており、一挙手一投足が何かしらイメージやブランドに影響を与えているのだ、ということに驚くと共に、これがグローバル化することの難しさなんだなというのを日々感じるのだ。
しかしながら、僕は海外で成功を収めている日本の多くの企業が真の意味でグローバル化をしているとは、まだ思わない。それはなぜか?
授業で日本企業のことが言及されて学生が意見を言う時、ほぼ必ず同級生たちは「チラッ」と僕の顔を見る。もちろんそれは日本企業が「失敗例」として取り上げられており、僕が発言を気にしないか・・ということが気になるからである。
しかし例えば同じようにGEやアップル、シーメンス、マイクロソフト・・・そういった企業について意見を言う時に、アメリカ人やドイツ人の顔をみる同級生はいない。もちろんクラスで僕がただ一人の日本人ということもあるだろうけど、日本企業と言うのは良くも悪くも「日本」という人格の一部を形成しているのだな、ということを改めて感じる。
もし多くの同級生が僕に気兼ねなく日本企業の批判が出来たのなら、きっとその企業はグローバル企業として認知されたのだと思う。今のところ、それに該当する企業は・・・ソニーだけである。ということで、頑張れソニーと授業で話されるたびに思う今日この頃である。
最後に、一つだけ。
個人的な思いを込めて、野村証券にはぜひNOMURAとしてよりグローバルな存在になってほしいと思っている。本当に個人的な思いだけど、金融機関が真の意味でグローバル化するということは、想像しているよりもずっと大きなインパクトを日本経済に影響を与えると考えているし、野村ならきっとそれが出来ると信じている。
※1・・・とはいっても、各教科に「必ず読まなければならないCase」というのはほぼ全世界で共通なので、そのようなCaseではグローバルカンパニーしか出てこない。そしてほとんどの場合Caseはハーバードが出したものである(CEIBSがハーバードと提携していることも影響している)。
※2・・・照り焼きチキンバーガーも日本発祥だが、上海にも似たようなメニューがあるので、日本オリジナルとは言えないような気がする。
※3・・・この二人と言うのはおそらくソニーのストリンガー氏と日産のゴーン氏のことだと思われる。実際には有名なところでは日本板硝子のCEOはクレイグ・ネイラー氏で日本人ではないので、2名と言うのは誤り。
« 上海で受ける学生訪問 -就職活動ではんなり思うこと- | トップページ | 第11週目終了! - 自分イメージがcomfortable placeになる時- »
「経済・政治・国際」カテゴリの記事
- (勉強内容備忘録): Next 教科書シリーズ 国際関係論[第3版] 第II編 国際関係の現状分析(2024.05.09)
- Amazonの人事政策と自らの仕事を結びつける「構成の巧さ」: (書評)テックラッシュ戦記 Amazonロビイストが日本を動かした方法 (その2)(2024.05.07)
- 結局は人間関係こそが命になる: (書評)テックラッシュ戦記 Amazonロビイストが日本を動かした方法 (その1)(2024.05.05)
- (勉強内容備忘録): Next 教科書シリーズ 国際関係論[第3版] 第I編 序論と歴史分析(2024.04.15)
- 勉強している内容の備忘録: マンキュー経済学 マクロ経済 第11章(貨幣システム)(2024.03.14)
「MBA」カテゴリの記事
- CEIBSが今年のFT MBA ranking5位に(2019.03.06)
- CEIBSが提供する1+1 lecture Tokyoに行って来た(2019.03.04)
- MBA留学時の借金返済完了(2018.01.29)
- このごろ何勉強してるの?と聞かれて(2017.06.11)
- [書評]対中とか反日とかワンワードではない中国 -「壁と卵」の現代中国論(2013.10.15)
「On」カテゴリの記事
- (勉強内容備忘録): Next 教科書シリーズ 国際関係論[第3版] 第II編 国際関係の現状分析(2024.05.09)
- Amazonの人事政策と自らの仕事を結びつける「構成の巧さ」: (書評)テックラッシュ戦記 Amazonロビイストが日本を動かした方法 (その2)(2024.05.07)
- 結局は人間関係こそが命になる: (書評)テックラッシュ戦記 Amazonロビイストが日本を動かした方法 (その1)(2024.05.05)
- (勉強内容備忘録): Next 教科書シリーズ 国際関係論[第3版] 第I編 序論と歴史分析(2024.04.15)
- 勉強している内容の備忘録: マンキュー経済学 マクロ経済 第11章(貨幣システム)(2024.03.14)
コメント
« 上海で受ける学生訪問 -就職活動ではんなり思うこと- | トップページ | 第11週目終了! - 自分イメージがcomfortable placeになる時- »
>ゲーム理論で利得関数が想定値
Balaがどうやって教えてたか忘れたけど、とりあえず2×2Matrixに1,0バイナリで定義して、それぞれの組み合わせに合わせて市場シェアかSelling Powerを理由にトップラインに変数置きつつ、数売れりゃ損益分岐点変わるよね的な理由でコストにも変数おいて、2社の税前利益の合計の最大値を求めるシミュレーションしたら、協力するのが吉って話じゃなかったっけ?でも、そうはならないのは、わがままのなせる技だよねえという感じでウヤムヤに終わったような気がする。
投稿: UK | 2011年10月21日 (金) 08時57分
今年はBalaではなくXubinがゲーム理論を教えているんです。。High-tech low-techの2×2のMatorixが与えられていて、単純にそこに利得が割り振られているだけでした・・その利得の妥当性が検証されていないので、現実に当てはめるのは無理なんじゃないかと。。。
投稿: GP | 2011年10月22日 (土) 16時56分