MBAをMBA的に見てみる -Finance課程の新設-
MBAというのは、一応「経営を学ぶための学校」と言うことになっているのであるが、それ自体は世間で言うところの学校と言うよりも、事業体というほうがしっくりくる。大学の一部門である場合でも、独自運営されているということが多いし、CEIBSのようにMBA課程しかないようなschoolの場合、よりその傾向は強くなる。
経営というのは何も企業だけを対象にしているものではないので、学校のような事業体もMBAで扱う範囲に含まれる。特にMBAの場合、世界中で同じランキングで評価されるので競争も非常にシビアであり、それぞれのschoolがランキングやプレゼンスをあげようと必死に頑張っている※1。
もちろんCEIBSも例にもれず競争を繰り広げており、-特にここ数年でアジアMBAは一気に知名度があがったため、競争がし烈になっている- プログラム策定側代表者はもちろんMBAを持っているし、事務側のTOPはMNC(multi-national company)から来た組織運営のプロフェッショナル、就職サポートメンバーにも複数のMBAホルダーがいる※2。ランキングをあげる、そのためにより良い教授陣をそろえ、学生を集め、寄付金を集め、よいキャリアを提供する・・・これが「事業体としての」MBAの目標である※3。
■ 新たなプログラムの立ち上げ ■
つい先日発表になったのだが、CEIBSは新たにFinance専門のPart-time MBAを立ち上げることになった。
MBAの収入と言うのは基本的には「卒業生や企業からの寄付」か「学生の授業料」の二本立てであって、一つのプログラムの収容学生数をホイホイ増やすわけにはいかないことを考えると、短期的にはEMBAを開いたり寄付講座を開いたりと複線化(サブブランド化)を進めるしかない。
ということで、新たなプログラムも収入増につながることが期待されているわけであるが、もちろん闇雲にコースを増やしたわけではない。
- CEIBSはこれまでmarketingが強いと言われてきたのだが、一方でCEIBSの上にいるHKUST(香港科技大)、そして現在ライバルになりつつある長江商工学院がFinanceに強いということもあり、率直に言うとFinance部門はCEIBSの弱点と競合の強みが直接ぶつかっているということになる。今回のプログラム設置をきっかけにschool側としてもよりよい指導陣を招き、弱点の補強をしたいということだと思う。
- 収入に直結するという意味においては、やはりFinance分野というのは学生にとって強いモチベーションになる。我々の学年でもだいたい40%ぐらいはFinance分野への就職を希望しているようで、Finance部門を強くすることは長期的によりよい学生を獲得できるチャンスが広がるはず。
いわば「収入増」と「ランキング対策」の両方を兼ねる戦略として、新たにFinance課程を追加したということである。
■ 成功するかどうかは・・運営次第 ■
この新しいプログラムの立ち上げは学内ではずいぶん前から議論されていたし、学生向けの説明会も複数行われていたのだが、おそらく学生の気分としては反対のほうが強いのではないだろうか(そもそも賛成の人は説明会などに出ないので、バイアスがかかっているが)。学生はCEIBSというschoolがE-MBA課程に力を入れていることも知っているし、よりよくなるためには多くのお金が必要であることを知っているので、感情的な反対はしない・・のだが、それでもやはり懸念点はある。
- 学生がドンドン増えてしまうと価値が下がってしまうのではないか?
→ これは中国において他の多くの大学が売上増加のために安易にMBAを増設していることが頭にあると思われる。私も一番最初に頭に浮かんだのはそれだった。
→ 実際には逆になることもあって、優秀な学生が入ってくれれば逆に評判は上がるわけで、もうこれはやってみないとわからない。 - 本当に優秀な学生が入ってくるの?
→ これは今のEMBA学生を見ていると、確かに疑問になるのもわかる。EMBAは人数が多いし、年齢が我々よりも高いだけに本当に色々な人がおり・・ここら辺は中国と言う事情を考慮してある程度は(個人としての)許容度はあげなければならないのかもしれない。 - MBA学生(特にFinance志望)とどう差別化するの?
→ これは前述したとおり、Finance希望の学生にとってはかなり切実な悩みだと思う。school側としては入学条件(年齢や社会人経験が違う)や期間に差をつけることで差別化するということだったが、はたしてマーケット側がどうとらえるかは分からない。ちなみにこの説明のところで初めて学位は全部MBAであるということをしった※4。
このように色々と不安を持つのは事実なのだが、運営が上手くいけば万事問題なし・・・というのも事実なので、MBA課程に存在する学生としては、既得権益にしがみつかず積極的に改革・・を応援していきたいと思う。もちろん自分がいる間は全く効果はないだろうけど、卒業後も母校のランキングがあがることは自分にとってプラスになるからね。
※1・・・例をあげればアジアNo.1(フランスとのダブルキャンパスなので厳密にはアジアだけではないが)INSEADは、そのものずばりINSEADとHBS(ハーバードビジネススクール)を比較対象としてベンチマークしている。
※2・・・中国には華僑を入れるとものすごい数のMBAホルダーがいる。ちなみに、現在日本人の海外MBA取得はだいたい毎年200人ぐらい。
※3・・・もちろん各schoolにはそれぞれの教育上の目的があって、単にたくさんMBA学生を輩出すればよい・・と考えているschoolはあまりない・・と思う。少なくともこの資本主義全開の大陸にあるCEIBSでも、それなりの教育目標は存在する(ように見える)。
※4・・・ちなみにEMBAも学位としてはMBAということで、今後私が人生でEMABに行くという意味は、少なくとも学位と言う意味ではほとんどなくなった。そうでなくても元々工学修士を持っているので、これ以上学位はいらないが。。
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