第43週目終了! ー工学系院卒の僕が考える私的entrepreneurship論−
Term3は前期と後期にわかれていて、その間は授業が休みになりテストがあるという日程になっている。ということで、今週はテストが一つあるだけで、他は一切授業がない・・という非常に自由な一週間となった。
本来はこの休み中の一週間で勉強をしなさい・・ということなのだろうが、あいにくな授業だったためイマイチ気合いが乗らず、とりあえず最低限度の勉強をしてテストに臨むという方針で臨むことを早々に決めて一ヶ月お願いしていたInternの総まとめに時間を使った。結果は・・うん、まあまだ配点としては50%が割り振られているレポートが残っているので、そちらでしっかり挽回するとしよう。
ちなみにテストが終わった翌日には、前職でお世話になった部下が日本に帰国するということで、北京までお別れに行ってきた。さらに北京では中国でMBAを取得している(した)日本人学生の方とも会うことが出来て、非常に楽しい時間を過ごすことが出来た。たった2泊3日で、しかもネットがやたら遅い、料金払い忘れで携帯は止まる・・といった問題はあったものの、今回の北京ではまたいろんな新しい顔を見ることが出来たので、その話はまた別の機会に・・・(こうやって書いてないネタが溜まる一方である、あぁ・・)
(本日のトピックは若干専門的な内容が含まれます)
■ ボルカーの講演と、医療システムと ■
うちのスクールでは、だいたい平均すると二週間に一回ぐらいExecutive sessionと題して、大物ゲストが来て講演をしてくれるのだが、今週は久しぶりに「誰がみても」大物とよべるようなゲストが訪問してくれた。サブプライム以降に米国で銀行規制を指示するボルカールールを提案した、元FRB議長であるボール・ボルカーである。金融系ではないと辞任している自分であっても、さすがにこれだけの大物が来るのであればぜひ参加せねば・・ということで、sessionに参加してきた※1。
さすがに超大物ということで、会場は満席。それでも聞く価値
はあるだろうと、立ち見で一
番後ろから見ることになったのだが・・・英語が果てしなく聞きづらい!かなりお年を召されているからなのか、それとも単に元々そういう発音なのか、とにかくモゴモゴ発音していてほとんど聞き取ることが出来ない。これはnativeじゃないから聞き取れないのか・・と軽く絶望していたのだが、session終了後にnativeの友人に聞いてみても「いや〜よくわからん講演だったな(内容も話し方も)」とのことだったので、これはしようが無かったと諦めたのであった。
とりあえず聞き取れた範囲では「金融危機が起こっても、金融システムに直接国が介入してシステム全体を維持しても、個々の銀行を守る必要はない」という話をしていたのであったが、じゃあ具体的にどうすればいいの・・というところがよくわからなかったので、この発言の評価は出来ない。個人的にはマイクロ秒で取引が行われる現在においては、そんなことは出来ないと思うのだが、例えば破綻がわかった瞬間に一時国有化をするということなのだろうか。。※2
この辺りは金融畑では「全然ない」自分にはさっぱりなので、もし誰かアイデアがある人があればぜひご教授いただきたいと思う。
今週はもう一つ、地味ながら非常に興味がある講演があり、そちらも遅刻に早退と非常にふざけたことをしてしまったが、話を聞いてきた。テーマは「中国におけるヘルスケアITビジネスについて」である※3。(どうやら業界には好かれていないようであるが・・)中国におけるヘルスケアビジネスというのには非常に興味を持っていて、MBA入学後にもせっせと企業セミナーやヘルスケアクラブのイベントに参加しているのだ。
中国のヘルスケアといえば、上海だけ見ても病院の状況というのはまだまだ日本には追いついていないし、それが地方に行けばさらに悪化する。これから急速に高齢化が進む中で社会保険も十分に整備されていないし、医薬品の認可はまだまだ不透明だしということで、中国ビジネスの中で最も「ポテンシャルが大きく」かつ「変えなければならない」業界の一つであると思っている。
ということで、ヘルスケアITの講演を聴いてきたのだが、毎回この手の講演を聴くたびにいったいどうすればよいのか、と途方にくれることが多い。以前に医薬関係のsessionの話を聞いた時にも、国の負担は増え市場は大きくなる一方で、医療レベルは下がっているという話を聞いたのだが、今回もハードの医療投資は増えているが、無駄があまりにも多くて全く有効活用されていないという話を聞いたのであった。
とにかくこの大きい中国では中央の意向通りには物事は進まないし、特に医療は各地方自治体(省レベル・市レベル)での独立性が強いので、個々の地域が個別最適(というか、担当者レベルでの個人最適)を追求してしまい、全体との効率性なかなか向上しないらしい。事実、中国ではものすごい数の医療機器メーカーが存在するらしいが、ほとんどは地場の病院のみに販売を行っているということで、各地域では事実上の一社独占という状態なわけだ。こういう状態では大メーカーがシステムを統合しようとしても個別対応が多すぎて現実的には無理だし、政策上でも予算措置を新たに行わないといけないので、なかなか思い切った改革をすることが出来ない。
中央集権で強力に物事を進めるには、あまりにも各自治体の予算規模・社会保険の状況・現在の医療レベルの状況・人材の質が違うために、うまくいかないことは目に見えている。個別の対応や改革ですむような話ではないのだ。
■ 工学的なアプローチとMBA ■
長々と書いてきたが、一見この関係ない「金融」と「医療」という業界の話が、実は僕の中ではシステム的アプローチと言う単語で一つにふとつながったのである。
僕は大学ではシステム工学を、大学院でも、まあ似たような学問を学んだのであるが、その学問の主要領域の一つにこういった有限の個別の主体が個々の利害にそって活動した結果システム全体がどのような挙動を示すかという学問領域がある。経済学における「ヒト」のように、あまりに多い対象を取り上げる場合には、ミクロとマクロの融合というのは大変なのであるが、対象が数千程度であれば、マルチエージェントシュミレーションという手法を用いれば、現在の計算機の能力であれば十分に計算可能である。
平たく言えば、政策が決定された時にどういったことが起こるかをコンピューターを使ってシミュレーションをしてみましょう、というのがこの学問なのであるが、特にマクロの(あるいは場の)動きを決定するルールと個別の振る舞いを分けて記述することが出来るのが、この研究方法のすぐれたところである。つまり、いろいろな政策の条件を変えることで個々の挙動がどのように変化し、その結果系全体(システム)がどのような動きをするかを観察するのだ※4。
このような研究方法は、例えば僕が大学院生の時期でも「電力卸売市場のためのルール設定」や「二酸化炭素排出権取引市場」などの研究のために利用されていた。横着をしないでちゃんと調べてみればよいのだが、例えば論文を調べることの出来るGoogle scholarに「Financial system agent simulation」という単語を入力すると10万件以上の論文がヒットするので、かなりの数の研究が行われているはずである。特に近年は経済物理学などが一般化しているので、そういう視点からの研究はますます進むのではないかと思う。
ところがこういった研究内容というのはMBAで全く聞くことはない。もちろん、それなりに高度な数学を利用しなければならないし(とはいえ大学理系レベルでも理解可能なのがほとんだ)、実際に手を動かすことが出来ないという制約があるのでしかたがないのだが、せっかくMaster(修士)とつく以上、少しでもそういった研究についてふれるというのはアリなのではないかと思うのだ。
(日本でも報道されていないだけど、当然省庁の中でこういった研究はされているのだが)米国や中国のように、アカデミックのエリートがそのまま経済政策を担当するような国で、特に中国のように規制によってビジネス環境が激変するような市場では、彼らの意思決定がどのように行われるのか、というのを知ることは決して無駄ではないと思う。少なくとも手法の存在ぐらいはしっておいてもいいのではないかと考えるのだ。
僕のように一時でも理系でこういった考え方に触れた人間からすると、こういったミクロの挙動とその関係性ががシステム全体の挙動と相互に関連するような場について、極めてミクロ的なアプローチ(病院の例でいえば、個々の病院への対応)と、極めてマクロ的なアプローチ(全体の規制はこうあるべきだ!)のみを取り上げて議論をするのは非常におかしな気がする。せっかく既に存在している知識があるのであれば、意思決定にもそれを使おうとするのが、真摯な態度ではないだろうか。もちろん、研究者がいわゆる「内輪の議論」になってしまっているというのも、もちろん現状の問題点としては存在するのも確かだ。ただね、やっぱり我々は修士にいるんだしね・・いくらacademicでは無いと言っても・・。もしかしたらMITスローンのようなengineering かつacademicな雰囲気が強いschoolではそういうアプローチも取り上げられているのかもしれないけど・・。
何か話が随分ととっちらかってしまったのだが、要するに僕がいいたいのは、我々がMBAで学ぶようなアプローチ以外にも世の中にはたくさんの問題解決方法があって、それをどうビジネスにいかしていくのかというのも、我々のようなバックグラウンドを持つような人間に取っては大切なことなのではないか、ということだ。MBA的な考え方は確かに「目の前の現実」に対処するのは有用かもしれない。でも、残念ながら(そして、それゆえにやりがいがあるのだが)世界はそれほど単純ではなくて、だからこそ持てる知恵をフル活用するという姿勢こそが、つまり我々MBA学生がもれなく学ぶentrepreneurshipにつながるのではないだろうか。
(リサーチ無しで書いているので、こういう実例があるよ、といったご意見いただけると嬉しいです)
※1・・・こういうsessionは「誰にでもわかる大物」以外にも、業界では大物が来る場合もあり、実ははそういうゲストのほうが面白いということもある。ただ、聴講者がそれほど多くないので、何か申し訳ないという気分になってしまうのだが。
※2・・・国有化といっても資本を注入してしまっては意味が無いので、なんというか資産と債務をまるごと徴発するということになるのだろうか。
※3・・・言い訳をすれば遅刻はInternのプロジェクトのまとめをしており、早退は別の企業から面接のお誘いの電話がかかってきたからである。特に後者はおかげさまでトントン拍子に話が進み、6月からまたInternで働き始めることになった。これでMBA期間で3社目の広告会社。
※4・・・個々の反応は、プロセスをあらかじめ決定しておく方法と、目標となるような関数を設定して自己回帰的に最適化をはかるという方法(遺伝的アルゴリズムなどを使う)があるが、ここら辺は複雑になるので割愛。
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