第50週目終了! - Healthcare の授業を取ってみた -
二週間休みなしで続いたIntern×授業の生活も、ようやく今日で終了。明日からさらに5日間続けてInternがあるとはいえ,とりあえずreadingの課題を読んだりテスト勉強をしなくてよいということで、仕事から帰ってきたらベッドに直行という生活になってしまいそう。僕が上海に来てから最も空がきれいな夏も過ぎていく50週目も無事に終了。
■ 何も知らないHealthcareの授業 ■
ちょっと前に書いたように、この夏休み期間に僕はHealthcare system, Policy and Reformという授業を取っていた(前回書いた時は名前がちょっと違った・・)。この授業、夏休み期間中でなるべく負担を少なくしたいところにもりだくさんのReadingがある、授業終了後にプロジェクトがある、Healthcareという専門領域の話であるという(楽をしたい学生的には)辛い要素ばかりが重なっているせいか、参加学生が非常に少ないという授業である※1。
ところがこの授業、意外と言っては失礼だが、実に面白くてためになる授業だった。あんまり期待していなかっただけに満足度はすこぶる高いし、わずか二週間気合で授業に参加すれば単位をもらえるということで、こんなお得な授業はないと思う。
まず、基本的に僕にとってHeaclthcareに関する知識というのは「何にもない」というのが大きい。僕だけでなくほとんどの日本人にとってはHealthcareというのは、保険証をもって病院に行けば、そこそこの負担で治療を受けられるものであってそれ以上でもそれ以下でもないとように思う(もちろん生命保険に入ったりはするだろうけど)。
この授業はそういった初心者が、healthcareのプレイヤーはそれぞれどういった存在か、保険システムとはどういうものか、どういった支払いシステムが存在するのか、どういうことを考えて制度設計をするべきかということ、という基本的なことを学ぶように設計されており、全く予備知識なしでもちゃんと授業を聞いていればわかるようになっている。もちろん基本として最低限のreadingを読んでいることが求められているけど、時間対効果でいうとすごく効率が良かったように思う※2。
僕がどのくらい日本のHeathcareについて知らなかったかというと、たとえば授業中にこんな会話をしたことぐらいだ。
教授:さて、日本では病院にいった場合の支払いシステムはどうなりますか?
自分:一部を患者負担、残りは加入している公的保険から支払われます。
教授:請求金額はどのように決定されるのですか?
自分:患者が受けたサービスが点数化されて、それに基づいて請求が行われます。
教授:その請求する点数が正しいかどうかは誰が監査するのですか?
自分:・・・さあ?誰も見てないんじゃないですか?(Nobody might check?)
ここで教授は「そういうブラックボックスと思われている状態、まさしくそれが問題なのです」と全員に向かって告げたのだった。こういう一見自分にとっては常識だと思っているようなことを改めて学ぶ機会と言うのは本当に面白い。
次に今回の授業が良かった点に、少人数だったという点がある。MBAの授業は日本の大学の授業にくらべれば遥かに議論が多い・・ということになっているが、実際には人数がたくさん参加すると、議論と言うよりはお互いに言いたいことを言うだけになってしまうし、聞きたいことを自分のタイミングで聞くことは難しい。
ところが今回の授業に参加しているのは20人以下ということで、いつでも好きな時に授業をSTOPして質問をすることが出来るし、教授は適宜時間を使って学生を小グループにわけて議論をする時間を作ってくれたのであった。こういう「グループごとに発表する」という授業形態は、教授側からすれば発言(と熱意)があまり事前によめないこともあり、面倒くさいと思うのだけど、今回の教授は一つ一つ丁寧に議論に付き合ってくれて、日本の大学でいえばゼミのような楽しさがあった。個人的には、やはり若手の助教授クラス、しかも客員教授はいいよねぇ、とあらためて自分の判断が正しかったのを実感したのである(ちょっと大げさ)。
実際に学んだ内容もかなり印象深く、自分の中でしっかり言葉として残ったのも非常に好印象だった。この授業に限らずMBAの授業は広く浅くというのが一般的なので、極端に言えば自分の中で「一生忘れないワンワード」があれば、それで十分だと思っているのだが、今回の授業でもそういったワードを得ることが出来た※3。
そのワンワードというのは、聞いてみれば実に当たり前のことなのだが「医療と言えども大きな目でみれば、経済的なIncentiveが動かすための原動力となります」ということ。(もしかしたら僕だけかもしれないが)医療というと「お医者様がいつでも完璧な治療を目指してくれる場所」というイメージがあるのだが、当たり前だが医者も病院も、保険会社も経済的な利益がなければ生きていけないし、人間である以上より多くの金銭的メリットがあるほうがいいに決まっている※4。
むき出しにするか隠すのかは別として、やはり個々のプレイヤーが「自分にとっていいな」と思えることでないと、大きな組織やシステムを動かせないというのは、とてもとても重要なことだと思う。個人的にも、善意には過度な期待するな、というのは自分のポリシーでもあるし。
■ 業界の話をする意味ってあるの? たぶん、ある ■
CEIBSでのカリキュラムを見ても、今回のHealthcareのように「特定の業界に特化した授業」というのはほとんどない。他に似たような授業を上げるとしたら、"Hedge fund"と"Investment Banking"というFinance系の授業があるが、どちらかということこれは業界と言うよりもFunctionに注目をしているのではないかという気もする(残念ながら僕は登録していないが)。
それじゃあなんでこのHeaclthcareだけわざわざ「業界」として取り上げるのか、というと、中国において「最も解決が必要」で、かつ「必ずビジネスチャンスが発生する」のがこの業界であるからに他ならない。
中国はGDP上で見れば既に世界第二位になっている経済大国であるが、一人当たりのGDPで見ればまだまだ先進国にはほど遠いのが現状である。しかもその富の偏在っぷりでいえば、日本など可愛いレベルであり、地方にいけば経済発展(?)というレベルの場所はまだまだ多い。・・・というか、そういう場所は外国人が入れない場所もまだまだあるので、書いている自分でも実際に目にしたわけではない。
その上、長年の一人っ子政策(と経済発展の副作用)で急速に少子高齢化が進んでおり、医療福祉問題は「必ず」この国のそう遠くない未来に解決しなければならない問題である。しかも現在ですら公的医療のレベルは泣けるほどに低い。はっきり言って、中国にとって「山の高さを競うのではなく、日々のオペレーションのレベルが問題になる」医療と言うのは最も解決が苦手な分野である。
「必ず」解決しなければならない問題がある、ということは、そこには「必ず」ビジネスチャンスが発生するということである。しかも、医療のように地場の産業と地方公的
機関が必ず関わってくるような分野は、先進国の技術レベルだけでは戦うことが出来ない、言いかえれば外から見た知識だけでは戦えない領域でもある。だからこそ、僕が在籍しているCEIBSのように各リージョンで貢献が求められるようなMBAにとっては非常に大きなトピックなのである。
個人としても、せっかく仕事をするのであれば世の中のためになったほうがいいと思っている人間 ‐世界を変えるというMBAらしい言葉はあんまり好きではないが - にとっては必ずどこかで接点がある業界だと思っている。少なくとも問題意識だけは心のどこかに埋めておくべきなんじゃないかと思っている。
はっきり言えば今回学んだことは全然全然基礎の話だし、これで中国について何かを学んだということはできないくらい外国の(主に米国の)話しである。それでも、今回の非常に短い時間が0でないことを祈って、そういう風にMBAというのはあるべきだと思っているので、夏休み期間中にもう一回はReadingを読みなおしてみようと思っていたりする。何よりプロジェクトレポートも残っているしね。。
※1・・・ある中国人学生は「彼女は助教授だから、大した授業はしない」という理由で参加していなかったのだが、自分から言わせれば、わざわざ夏休みに他校まで来て授業をしてくれる助教授クラスは成果をほしがっているのだから、真剣に授業をするはず・・と考えたりする。どっちにしてもいやらしい判断ではあるが。
※2・・・逆に初心者向けすぎたらしく、我がschoolのHealthcare clubのリーダーを務めている女性には簡単すぎてつまらなかったらしい。彼女の業界知識はハンパないので、彼女が面白い授業をやったら我々は全員爆死であろう。
※3・・・自分の記憶方法として、ワンワードさえあればそこから紐づけて記憶を引っ張りだしてこれるということも大きい。
※4・・・もちろん個人によって期待する金銭的見返りは違うだろうし、精神的な充足感と言うのも違う。ここではそういった個別の例ではなくて、全体としての話をしている。
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