2012年9月18日に考えた自分のキャリア
毎年9月18日というのは満州事変がはじまった日ということで、中国全体で反日の機運が高まる。日ごろ使っているVPNの日本向け接続が遅くなるのは毎年のことなのだが、今年はここ一週間ほどの騒動のおかげでかなり緊張した生活になってしまった。
もちろん、こちらに来てから今までこういった感じの反日活動というのは経験しているし、不愉快な思いをしたことも一回ではない。ただ、それでも今回の騒動というのは今までとは違う意味合いがあったし、卒業後のキャリアについても多少考えを変えざるを得ないような影響を与えたのだった。
■ 18日に考えた僕のキャリア ■
僕はこれまでもこういった記事やこういった内容で、卒業後のキャリアについて何度も書いてきた。職種や業種といったところで考えが揺れる部分はいろいろあるし、今でも揺れている部分は多くあるのだが、それでも『中国をメインの活動場所として、中国で同じように方を並べて働きたい』という希望がずれたことはなかった※1。ただ今回の出来事を受けて(正確にいえば今回だけでなく、夏のInternの影響も受けて)少し考えを修正しようと思っている。具体的にいえば、中国人学生が応募するような「中国大陸で幹部候補として働くことを期待される」リーダーシッププログラムへの応募はやめようと考えるようになった。
- 街中で家族の安全が保障されない可能性がある
- 職場で孤立する可能性がある
- そもそも外国人が安定して働けなくなる可能性がある
現状では家族どころか嫁さんもいない自分ではあるが、一応頭の中(だけ)にある計画では、数年以内に結婚して、運が良ければ子供がほしいな~と漠然と考えている※2。ただそうなるとやはり一番に気にしたいと思うのは家族の健康と安全だ。
リーダーシッププログラムというのは中国国内で幹部候補としての働きが期待されるわけで、必ずしも勤務地が上海や北京という大都市になるわけではない。中国は広く、今後のマーケットが中西部に広がっていくことを考えると、勤務地がそのような場所になるという可能性も考えられる。
今回の出来事で衝撃をうけたのは、広州や上海といった大都市であってもデモ以外の場所の、いわゆる街中で日本人が被害を受けたということである。もちろん詳細情報を手に入れることはできないし、彼らが本来であれば気をつけるべき場所で油断をしていたという可能性も否定はできないが、やはり街中で「どこで危ない目にあうかわからない」というのは非常に怖い。中国人と結婚しようとも、一回日本人と結婚すれば「日本人の嫁」になるわけで、こういうことが潜在的に起こる・・というのはビビりの僕には、なかなか精神的に辛い。
今回はTwitterで在中の人と情報を交換することが出来たのだが、やはりこういう事態になると役に立つのは中国でのビジネス経験が長い日系大企業の情報網だ。こちらでは商社
の駐在員が家族を返すようになったらかなり危ない・・と言ったりするのだが、やはり会社が騒動が起こった時に迅速にサポートをしてくれるというのは非常に大きい。
一方で今回僕が夏にInternをした会社でも感じたのだが、Global企業の中でもLocalizeが進んでいる企業というのは、従業員のほとんどが中国人である。特にバックオフィスのようにコストセンターとなるような場所は現地化の進んでいる。もし仮に問題が起こった時に、大陸人以外がマジョリティとなっている職場、あるいはマネジメント層に複数の外国人がいる場合には、サポートは受けられないまでも何らかの理解を得ることが出来るのだが、そうでない場合、たとえば短期的に他の都市から上海に移動したいといったことの理解をえるのは難しいかもしれない※3。
僕は日本の一部で言われるような「中国バブル崩壊論」にはくみしない。また、現在の中国の統治体制がすぐに変わるということも考えていない。ただ、一方でそれは現在のような「それなりに」安定して成長を享受出来る状態がず~~と続く考えている、ということを意味しない。
中国経済がどうなるかということは、この今の瞬間でも世界中で多くの人が頭を悩ませている問題である。楽観論と悲観論でいえば、短期的には今のままでいくだろうけど、長期的には中国人が期待しているほど楽観的ではないというのが僕のスタンスなのだけど、いずれにしてもそう遠くない未来に大きな調整局面が来るのでは、と思っている。
多くの報道や情報が指摘するように今回の出来事の遠因の一つは、経済発展の恩恵にあずかれない層の不満である。彼らの不満というのは常に潜在的に社会の中に溜まっていっているし、その爆発の仕方も必ずしも全てがコントロールされているものではない。極論を言ってしまえば今回は偶然にも(あえて偶然といいたい)日本に対する不満きっかけだった、他の要因や他国への反発で同じような出来事が発生しないとは言い切れない※4。
仮にその反発が今よりもう少し大きくなった場合、あるいは今回青島で工場が破壊されたように、数週間から1カ月の単位で中国で外国人が安定して働けなくなる可能性がないとは言い切れない。マクロでみれば外国企業が出ていくことはないと思うが、短期的にそういうことが起きないとは言い切れないし、個人への影響はもっと大きくなる。仮に一部機能をクローズすることが決まっていきなり解雇でもされた日には、いきなり路頭に迷うことになってしまう。
■ 命あっての仕事、安全あっての貢献 ■
こういうことを感じている一方で、じゃあ中国からすぐに脱出したいとか、日本に戻って働きたいと強く思うようになったかと言うとそういうわけでもない。自分でもすごく歯切れが悪いと思うのだが、これまで中国一本足だった自分の地盤をもう少し広げて、自分の自由度やmovilityを上げていきたいと思っているのが正直なところだ。
たとえば(これは収入面でも非常に魅力的だが)多国籍企業の駐在扱い(expat扱い)で中国にいるというのは一つの方法だと思う。またこれまで狙っていたGreater ChinaやMainland Chinaでの採用ではなく、Asia Pacificでの採用を狙うというのも手だと思う。さらに言えば、これは確率が非常に少ないがGlobal LeadershipにApplyするという方法もある。ようするに自分の中で中国「だけ」にこだわることのriskが少し上がったので、リスクヘッジの方法を準備しておきたいというようになったというのが、今回考えているキャリアを微妙に変えたいということの本音だということ。
上海にはそれこそ10年以上こちらにいてビジネスをしたり、各分野で活躍をされている日本人の方がたくさんいる。そういう方はこれまでも何度もこういった騒動を体験されてきたので、今回の出来事で帰国をした日本人に対して「安易に逃げる」という言葉を使う人もいたりする。確かに、いい時だけ来てお金を稼ぎ、ちょっと危なくなったらすぐに逃げるというのは現地経験の長い自分から見てもあまり気分のいいものではない。
一方で、そういう方と言うのはご家族が中国人だったり、こちらに生活拠点の大部分があるということで「安易に動くことが出来ない」というのも事実だ。
命あっての仕事・・・というと、今回のように日本人の命が取られたわけではない状態でずいぶん大げさな話だが、やっぱり今後30年ぐらいは自分の仕事人生が続く(であろう)ことを考えると、今回の出来事を見て自分の身の安全というのを一度真剣に考えてみたいと、そんな風に思った。
僕は最初の会社を辞めてまでこちらに残ったし、中国経済をより勉強したいと思ってMBA schoolを今の場所に決めたし、今でもこの巨大な国でまだまだ経済発展の恩恵を受けていない層に「外国人として」できることがあると信じている。ただ、臆病と言われても、自分の安全を犠牲にしてまでそういったことにこだわりたいか・・と言われると、そこまでの自信はない。
アントレプレナーの授業では、アントレプレナーは出来る限りとれる範囲でriskを取るように、riskをmanageすることが重要だと教わる。同じように自分の人生もriskをmanageするという観点をもう少ししっかりもってもいいのではないか、そんなことを感じたのが今回の出来事だった。
※1・・・もちろん相手があることでオファーをもらわなければスタート地点には立てないし、中国語がネイティブではないというビハインドもあるが、まずはチャレンジをしようと思っていた。
※2・・・近頃FBで見る写真の半分ぐらいが友人の子供関連の写真で、やっぱりこの年になると子供が欲しいよな~と考えたり(妄想したり)する。
※3・・・多国籍企業ならそんなことはないんでは・・と考える人も多いと思うが、今回実際に自分で働いてみて、多国籍企業と言えどもよっぽど厳しい会社以外は、現地で働いている人の文化的背景が判断に反映されるものだということを感じた。
※4・・・教育内容により反日感情は全体的なトーンとなっているが、中国では今現在でも反日とは関係ない理由で小規模な衝突はたくさん起こっている。
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