第64週目終了! - MBAは起業に役に立つのか? -
10月も終わりのこの時期になるともうすっかり上海は朝晩が冷えてきて、冬が近いのだな~ということを実感する。考えてみればもう上海に来て丸5年が経過したのだが、6回目の冬を迎えようとするこの時期になっても、未だに上海の冬は寒すぎて慣れないし、シャワーのお湯がなかなか温かくならないこの時期は正直言えばあまり好きではない。とはいえ、今の情勢からはおそらく少なくとも数年は上海にいないだろうことを考えると、いよいよ最後の冬なんだな~とちょっと感慨を感じたりしている。
Term5の前半が既に終わったしまいテスト一つしかなかったMBA第64週目もまったりと無事に終了。風邪ひきにだけは注意しないと。。
■ MBAと起業 ■
先週・今週とかなり僕よりも若い複数の人から「MBAにいるということは将来起業を考えたりしているのですか?」という質問を受けた。Twitterとか見ていると確かにTOP MBAを出て起業した人が積極的に発言したりしているし、MBAの教授はかなりの確率で「Make world better」というのでMBA==起業と思っているという人は結構多いと思う。また、実際にMBA卒の後に起業をするということで、既に友人たちと会社を設立したという人間も僕の周りにいることも確かだ。
ただ、それでも僕はMBA==起業というのは間違った認識であると声を大にして言いたい。
まず第一に思うのは、基本的にMBAとはどういう存在か・・というところがちょっと違っているよな~と思っている。メディアに取り上げられたり、積極的に発言している方というのはいわゆる本当のTOP校出身の人が多くて勘違いをしがちなのだが、少なくとも米国においてはMBAというのはとにかく裾野が広く、必ずしもスーパーエリートだけが行くような場所ではない。言い換えれば、普通に働いている方が、キャリアチェンジをしたいからあるいはスキルアップをしたいからという理由で行っても何ら問題がない場所なのである。MBAを出た起業家は確かに多い。ただ彼らも最初からそれが目的だったわけではなくて、会社をレイオフされたからという人もいれば、友人に誘われたという人もいるし、上司にむかついたからという人もいる※1。
次にMBAの勉強内容と起業というのは、それほど関係が強くないということだ。確かにMBAの中ではアントレプレナーシップという授業を学ぶことが出来るし、その分野ですごく強いMBAというのも存在する。ただ、MBAというのはこれまでも書いてきたように広く浅く経営スキルを学ぶものなので、MBAで学んだからといって即座に起業するほど世の中を広く知れるわけではない。ただ、僕のように就職後一貫して営業とかMarketingのように市場側にいた人にとっては、Financeや会見を学ぶのは有意義ではあると思う。
最後に言いたいのは、少なくともMBAにいる人間の中で自分でモノが作り出せたり営業が出来るような人間はあんまりいない・・・という事実である。うちのschoolだけでなくTOP schoolというのは結構似ていると思うのだけど、やはり過去経験はFinance畑にいました、とかコンサルにいました・・という人間は多い。他はMarketingとか法務とかHRというのもいないわけではないが、これが現場でバリバリプログラムを書いてました、とか営業でガンガン開拓していました・・みたいな人間はほとんどいない※2。
実際に起業をした方ならわかってもらえると思うのだが、普通の人間が自分が用意できるお金で起業をしようと思ったら、「何を売るか」と「誰に売るか」を準備できる人間が一番強い。素晴らしいビジネスプランを書いてお金を集めるんです・・・というのは、確かにあるにはあるが、そういうことが出来る人はもともとそういう場所に近いところにいたわけでMBA卒業をしたから誰でもそういう場に立てるわけではない。立ちやすくなる・・というのは事実だけど。
ということで、総じて言えばMBAを取るということは「起業をする際に有利になる点もあるだろうけど、だからと言ってMBA==起業というのは、そういう目的を持ってきた人のみに当てはまる話」というのが僕のスタンスである。
■ 天才でない僕たちが出来ること ■
こういうことをいいつつも、じゃあ起業をしたい人がMBAに来る意味がないかというそういうわけでもない。ということで「起業のためにMBAに行けばいいのかな・・」と悩んでいる人にはいくつかのことをまず考えてほしいな~と思う。
- どういう規模の会社を作りたいの?
- 売るものを作れる?
- 世界を変えるって?
「世界を変える」って確かに格好いい。ただ、世界を変えるというのはいったいどういうことで、いったいどういう風にやればいいのか・・というのは一度立ち止まって見るとよいと思う。そうすると、極めて、本当に極めて独創的な技術とかセンスを持っているまさに「特別な人間」以外は、まずは努力すれば手に入る技術や小さなアイデアからスタートするということが分かると思う。やはり、大きくなったことで出来るようになる、ということは確実にある。
Microsoftは確かにPCの普及に圧倒的に貢献したと思う。でもMicrosoftは最初はApple向けのソフトベンダーだった。Facebookによって人のつながり方は変わったかもしれないけど、My spaceという競合は一時はFBよりもずっと先に行っていた。Amazonは今ではテクノロジーで世界に大きな影響を与えているけど、最初は本をネットで売るというシンプルなモデルからスタートしたし、同じようなことを考えた人はたくさんいた。
僕は「世界を変えると思えること」というのは、本当に何かを成し遂げたいと思う経営者が持つべき才能の一つだと思う。なぜなら多くの人が、ある程度の成功で満足をするし、そこから先の辛いことを耐え続けるほど野心を持てるということそれ自体が才能だと思うからだ。だけど、一方でスタートは目の前のマーケットから、でもちっとも構わないと思う。そこに誰も解決していない課題があり、自分のアイデアでそれをOpportunityに変えることが出来るのであれば、それは少しだけ何かを良くしたことにはならないだろうか。
そういう質問をすると「チャンスがあれば大きくしたい」と答えるのが自然だろうとは思うのだけど、自分がどういうビジネスをしたいのか・・ということを考えればある程度最初に必要最低限な大きさというものは見えてくる。
率直に言ってしまえば「とりあえず自分の会社を作りたい」というのであれば、保険業界に入ってたくさんお客さんを捉まえて独立する、とかプログラムを一から勉強してIT土方と言われようがなんだろうが自分で開発をし続けるとか、そういう方法はたくさんあるわけで、そういう人がMBAに来るのはある意味時間の無駄である。
また逆に「俺は世界で最高の建設会社を作るんだ!」という野望があったとしても、あんなに資本を使うような業界でいきなり一から起業するというのはまず無理な話なので、そういう業界で経験を積んで資本家から声をかけられるのをまったら・・という話になる。
もし仮に自分がお客様に売れるものを作る能力がない(例えコンサルをするということであっても、Solutionを売るという話である)としたら、確実に誰かと組まなければならない。優秀なバックオフィスというのは、バックオフィスが出来たら初めて役に立つわけで、会社が立ち上がるタイミングで必要なのは「売るもの」と「客」の二つである※3。
もし自分が作れないとしたら「どこかから買ってくるか」「誰かにやってもらうか」しかないわけで、そういう人やモノを自分が過去に惹きつけることが出来てきたか、あるいは今後は惹きつけることは出来そうか、を考えてみるといいと思う。もしそういう経験が全くなければいくらMBAを出てもかなり起業は大変だと思う。アントレプレナーの授業でも、起業というのは現在満たされていないOpportunityを探し当てるということであり、そのためには業界内部の知見が必要であるという話がされていた。
僕が起業をしますか?と聞かれたら、そういう気はないですね・・というのは、上の3つの基準と僕の指向性を考えた時に、その方向では必ずしも起業という必要はないからだ、というのがある。僕のやりたいこと・・というのはどちらかというと社会インフラに関わることだったり、あるいは市場を広めていくということだったりするのだが、今からそれを一から作りあげるというのは、やはり本当に天才と運に恵まれた人間以外にはとてもとても難しいことだと思うというのも否定しない。そして、僕は自分がそういう才能に恵まれているとは思わない。
MBAをもうすぐ終えようとする今の自分は、努力を否定するということでは全然ないしこれからも努力をし続けることに疑いはないのだけど、一方で僕の社会の中での立ち位置というか当てはまる場所があるだろうというのもやはり常に思っていることである。そして、もしそういうところを見つけることが出来て、自分のパートナーとか大切な人と満足する生活を送ることができれば、それが僕の生きる意味だと思っている。
もし起業をするということがその人にとって、特別な意味があるのであればそうするのがきっと正しいことだろう。どちらかと言えば、そういうことを真剣に考える時間がほしい・・そういう人にこそ、MBAという場所は向いているのかもしれない。少なくともこの期間には時間だけはたっぷりあるから。
※1・・・実際にこのschoolでの友人の中には、中国に来た理由が「元の会社でレイオフされたから」という人間もいる。そういうのは別に珍しいことではないのだ。
※2・・・スタンフォードとかMITとか行けばプログラマーからなった人も普通にいると思うが、そういうTOP校はそもそも今回の話とはちょっと違うので割愛。
※3・・・じゃあ、ライフネット生命はどうなんですか・・と聞かれるとちょっと困るのだけど、あれは極めて特別な例なので、今回の話には当てはまらない。ああいうことが出来るような人は僕のこの記事を読んだりはしないだろうし。。
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