故あって「巨象も踊る」を読み返す
今の職場に入ると決まってとりあえず最初に読もう・・というか、読みなおそうと思ったのが、ルイ・ガースナーの「巨象も踊る」。今の職場とどういう関係があるかといえば、もうそれは察していただくしかなく※1。
この本は発売した当時はそれなりに話題になっていたし、今でも大企業経営を語る上ではmust readの一つだと思うのだが、日本に帰ってきてAmazonで調べると在庫がない。。古本で買うのも何か気が進まなかったので、結局英語版をKindleで購入して読んでいたのだが、やっぱりどうも英語だと腰が重いのか中々読み進められなかった。
で、ダラダラとこのままゆったり読むかな~と思っていたところに、妻より「区立の図書館が大変充実してる」と聞き調べたところ、なんと所蔵している。しかも、徒歩10分の別館まで郵送してくれるそうな!・・・ということで、カッコつけて購入した英語版にはそうそうにあきらめをつけて、日本語版でサッサと読み終えたのであった※2
さて、この「巨像も踊る」、ざっくり言ってしまえば90年代の頭に経営危機にひんしたIBMに乗り込んで再生を成功させたCEO、ルイ・ガースナーの回顧録である。ガースナーはIBMの前にはナビスコ、その前はAME、その前はマッキンゼーといわば「経営のプロ」としてのキャリアを築いてきた人間である。そのガースナーが90年代当時、既に終わったと思われているIBMに入ってどのように経営を立て直したのか・・・というのがこの本のメインテーマである。
・・・と書くとかなり面白い話が出てくるのでは、と期待するのだが経営者の本としてはあんまり面白くはない。それほど厚くはない本で(日本語版で400ページ弱)、IBMの話だけではなく自分のキャリアや経営全般の話をしているので、全体としてはフォーカスされていない印象を受ける。同じ経営者本で、しかも会社規模が似てるとくればジャック・ウェルチの「わが経営」のほうがずっと詳細で面白い(そういえば表紙も似てる・・)。
それよりもこの本で素直にすごいな・・と思うのは、日本語版出た2002年の段階でかなり正確に現在のIT状況を予測していること。もちろん多少技術の形は違うが、2013年現在のマルチデバイスとサーバー側のクラウド処理はほぼ完全に読み切っている。
多少うがった見方をすれば、IT業界にいて主導的な立場にいれば「読んだ方向に未来をもっていく」というのは不可能ではないのだけれど、それよりもこれは、地道に基礎研究をすれば、少なくとも10年後までは見通すことが出来たのだ・・ということの証左だと思う。
考えてみれば、IT技術というのはムーアの法則ではないが、「誰が」「どのタイミングで」実現するのかということさえこだわらなければ、結構先の方は読みやすいものだといえる。アプリケーションに関して言えば、時々非連続な発展というのもあるし、10年単位での発展と言うのはかなり予想が難しい。
一方でハードが絡んでくるようなビジネスであれば、ある程度技術ロードマップはあるし、ほぼそのロードマップに沿って「誰かが」ブレークスルーを起こすのは間違いないわけで、お金と人がいれば、そのブレークスルーを買うという方法をとれば、ポジションを維持し続けることが出来るのかもしれない。
じゃあ、なんで会社自体は伸びたり凹んだりするのか・・といえば、それはまさしくこの本に書かれてることで、そのよみにどれだけ早く「ついていける」かどうか・・ということなんだろう。
ちなみに、IBMというのはアンチもいればファンもいるという意味では大きい会社らしいといえばらしいのだが、僕がいた中国では大変に尊敬を受けている会社で「給料はあまり上がらないが、なかなか人がやめない」会社としても有名である。僕がいたMBAにも採用のためにかなり偉い方がきたが、彼はガースナー以前も知っている生粋のBlue(IBMのイメージカラーである)で、IBMの素晴らしさを、それこそ涙を浮かべて話すような人であった。
個人的には、IBMのガースナー時代、それ以降の在りようをケースで学んだり、人から聞いたり、あるいは極めて近くから(笑)見ているので、必ずしもこの本の通りには言ってないと思うところもたくさんある。なんせ今でも数十万人が勤めている会社だし、僕がいたのはアメリカから遠く離れた極東なわけで、そりゃー全てが理想通りにはいかないよね、とも理解
はしている。
とはいえ、MBAを卒業して思うのは「でっかくて人がたくさんいる会社」にもやりがいというのはあって、それはたぶんスタートアップで色々切り盛りしたり、金融でガッツリ稼いでみたいな人生とはだいぶ違うんだろうけど、それでも価値と言うのはそれなりにあって、やっぱりそういう大きい組織から逃げてばっかりというのは駄目なんだろう、ということだったりする。
そして、そういう会社の方向を個人が変えていくということ、そして実際に自分が引退て既に10年を越えても何らかの形で足跡を残すというのは、人間としてとても幸せなんじゃないかと思う。もちろんその陰には数万人を超える人が仕事を失ったわけなんだけど。
※1・・・外資系ITコンサルタントで、この本が関連していると言えば一社しかないのでバレバレなのであるが。
※2・・・数か所訳がおかしいと感じたところがあったので、そのあたりは英語版で補足をしたりもした。買った以上ちょっとは読んでおきたいし。。。
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