「製品思考」というAWSのスタンスがよくわかるインタビュー
自分はビジネススクール帰国後に入った会社に変わらず勤めているというまあまあレアな人間なのだが、今の会社ではここ2年ほどクラウドとAIに関するマーケティングの仕事を担当している。こういってしまうと、その業界にいる人はほぼ100%どの会社にいるのかがバレてしまうのだが(というか、先日のタイトル変更でプロフィールに勤務会社名を記載したので、そもそもそういう心配はいらないのだが・・・)、一応Blog本文では会社名を明かすことはやめておく。
クラウドの領域で最も売り上げが大きく、かつ成長率も大きいという会社がAmazonの子会社であるAmazon Web Service(AWS)だ。現在では総合クラウドベンダーは米国発のAWS、MicroSoft(MS)、Google、そしてIBMにほぼ集約されてしまった感があるが、その中でもダントツで売り上げが大きく、その上で成長率も最大に近い・・・つまり後続をさらに引き離している恐ろしい会社である。
タイトルからもあったり前ではあるが、僕はその競合会社に勤めており、日々AWSの活動には目を光らせている。・・・・というかいやでも耳に入ってくる。ITベンダーはだいたい年に1回アメリカのどこか、だいたいラスベガスかカリフォルニアベイエリアで、大きなイベントを行うのだが、AWSのビッグイベントであるre:Inventは競合から見ても非常に楽しみなイベントである。
AWSの凄いところは、ちゃんとこのイベントで「新しい製品」をドンドン発表できることである。こういったイベント行うときは集客が心配なので、つい新しい情報を事前に小出しにしてしまうのだが、AWSはそういうことをしない。こういったことをしなくても集客ができるという自信があるんだろう。
このイベントにあわせてAmazon.comのCTOであるWerner Vogelsのインタビューが掲載されていた。
このインタビューに出てくるWerner VogelsはAWSのコミュニティでは深く尊敬されていて、彼が東京のイベントで登壇すると会場のボルテージが上がるのをはっきりと感じることが出来る。そのWernerが日本語のインタビュー記事に出ていたので、大変興味深く読んだ。いわゆる「業界の中の人」からすると、AWSのスタンスがとてもよくわかる記事で、さすがITProグッドジョブという感じである。
競合から見ていても、最も気持ちがいいと思うのは、彼が明確にAWSは「製品思考(プロダクト・シンキング)」であると言っていることだ。
自分が在籍している会社だけでなく多くのITベンダーは、もう長い間・・・おそらく20年以上に渡って「製品==プロダクト」でもなく「技術==テクノロジー」でもなく、「ソリューション」を販売することを心がけていた(※1)。単なるモノを売るのではなく、お客様の課題を解決しようというわけだ。なので、社内にコンサル部隊を抱えたり、「ソリューションセールス」のような役職名をつけて営業活動を行ってきたのだ。日本風にいうと「モノよりコト」というやつだ(※2)。
それに対してAWSのスタンスは明確に異なる。彼らは、今ではかなり大きなセールスとアーキテクトを社内に抱えているが、もともとは「製品(プロダクト)」のみを販売するというスタンスだった。日本ではいわゆるユーザーが内製をしているのはまだまだ少ないので、ITベンダーが担いで販売するというスタイルではあるが、AWSは製品を提供し、アーキテクチャーやアプリケーションは利用側が考えるというのが基本スタイルである。ただし、製品だけをただ発表すると訳が分からなくなってしまう顧客もたくさんいるので、ソリューションパターンをまとめて、誰にでも手が届く場所に置いておいたり、ユーザーコミュニティに積極的に投資したりしている。
今のところこういったAWSの取り組み方はとても上手く行っている。プロダクト思考の1番良いところは無用なカスタマイズを避けられることで、正しく製品開発に集中することができるということである。ソリューションを届けると言うのは、どうしても顧客の課題にフォーカスをしてしまうため、カスタマイズや顧客の意見を聞きすぎると言う課題を、提供ベンダー側がコントロールしなければならない。
また、ソリューション志向と言うのは顧客の意見を聞いてからスタートするので、ある程度顧客とのたちポイントに知識やスキルが求められる。これはスケールすることこそが1番のメリットであるクラウドのコンセプトとは大きく矛盾している。
もう一つ、競合から見ていて素直にすごいなぁと思うのは、CTOという要職にいる人間が、日本の1ウェブメディアのインタビューに答えられるフットワークの軽さである。米系企業、特に大手ITベンダーは一つ一つの発言が株価に影響をしてしまう(という恐れ)を抱いているので、インタビューを受けることがあまりない。あるとしても、広報ががっちりカバーしてなかなかフランクな話を出来ないものなのだ。
今回のインタビューも裏側では色々な人がチェックをしているのかもしれないが、それでもこういう感じで話ができるというのはやはり自分たちへの自信があるのだな・・と強く感じたのだった。後半部分のように一見いらなそうな内容が残っているところとか、あまりチェックが入っていない感はある)。
※1・・・ソリューションというのはなかなかいい日本語訳が思い浮かばない。解決法とでも訳すのが一番しっくりくるのだが、ちょっと違う気もするし。。。
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