木村幹先生の「韓国現代史―大統領たちの栄光と蹉跌」を読んだ
最近立て続けに韓国の光州事件に関する映画を見て、当時の状況を持って知りたいと思い買ったのが本書だ。韓国の歴史・・・は全然当て感がない分野なのだが、Twitterで積極的に発信をされている木村先生はその発言が安定されていることもあり、安心して買ってみたのだった。
光州事件というのは1980年に全羅南道の道庁所在地だった光州市で発生した、民主化を求めるデモとそれに対する軍隊による鎮圧行動のことを指す。鎮圧行動というとおとなしい感じがするが、実際には150名以上の死者が出て、その数倍以上の負傷者が発生するという軍事行動だった。エンターテインメントとして描いているとはいえ、事件を描いた光州5・18や26年をみると、虐殺に近いシーンもある。
当時の韓国政治は長く軍部による政権を率いていた朴正煕(パク・チョンヒ)が暗殺された後で、政権自体はかなり流動化していた。Wikipediaを見るとわかるように、この短い期間に複数の大統領が就任している。しかし、実権は軍を掌握していた全斗煥(チョン・ドゥファン)が抑えており、この光州事件も彼の指示によるものだと言われている。先に紹介した26年は、逮捕後も民間人として生き続けた彼を暗殺しようとする遺族たちを描いた物語だった(実際の全斗煥は天寿を全うしている)。
この光州事件は韓国国内では知らない人がいないという現代史の大事件だが、日本では専門的に解説した本を見つけることが出来なかった。そこで、本事件をおそらくカバーしているだろう本作を手に取ったのだった。
本作は韓国政治を専門とする木村先生が、韓国の現代史を概説した一冊となる。新書という形式を取っている上にページ数もそれほど多くないため、自分のように韓国史の知識がほとんどない人間でもスラスラと読むことが出来るというの素晴らしい。薄い知識を目一杯引き伸ばしてこの量になったのではなく、豊富な知識の中から読者に向けて適切に切り出したということがよくわかる構成となっている。
本書の構成がユニークなのは、それぞれの歴史的な出来事に対して、歴代の大統領がどのようにその事件と向かい合ったのか・・ということをまとめて一つの章としていることだ。(今はそういう言い方をしないのかもしれないが・・)歴史を書く時には、編年体か紀伝体のどちらかと考えているような人間にとっては、ちょうど歴史を輪切りするようなこのアプローチはかなり興味深かった。
残念だったのは、自分が読みたいと思っていた全斗煥が対象との大統領として取り上げられていなかったこと。あとがきには、まさに光州事件の影響で全斗煥に関する「客観的な資料」がなかなか手に入らないことが、取り上げられなかった理由として記載されていた。木村先生ほどの方がそのように言うのであれば、おそらくその結論は間違いないのだろう。今後全容が明らかになるのか、あるいは歴史の1ページとして「ありうべき像」として語り継がれていくのかはわからないが、それだけ韓国現代史の中でも扱いの難しい事件だということなのだろう。
光州事件というのは1980年に全羅南道の道庁所在地だった光州市で発生した、民主化を求めるデモとそれに対する軍隊による鎮圧行動のことを指す。鎮圧行動というとおとなしい感じがするが、実際には150名以上の死者が出て、その数倍以上の負傷者が発生するという軍事行動だった。エンターテインメントとして描いているとはいえ、事件を描いた光州5・18や26年をみると、虐殺に近いシーンもある。
当時の韓国政治は長く軍部による政権を率いていた朴正煕(パク・チョンヒ)が暗殺された後で、政権自体はかなり流動化していた。Wikipediaを見るとわかるように、この短い期間に複数の大統領が就任している。しかし、実権は軍を掌握していた全斗煥(チョン・ドゥファン)が抑えており、この光州事件も彼の指示によるものだと言われている。先に紹介した26年は、逮捕後も民間人として生き続けた彼を暗殺しようとする遺族たちを描いた物語だった(実際の全斗煥は天寿を全うしている)。
この光州事件は韓国国内では知らない人がいないという現代史の大事件だが、日本では専門的に解説した本を見つけることが出来なかった。そこで、本事件をおそらくカバーしているだろう本作を手に取ったのだった。
本作は韓国政治を専門とする木村先生が、韓国の現代史を概説した一冊となる。新書という形式を取っている上にページ数もそれほど多くないため、自分のように韓国史の知識がほとんどない人間でもスラスラと読むことが出来るというの素晴らしい。薄い知識を目一杯引き伸ばしてこの量になったのではなく、豊富な知識の中から読者に向けて適切に切り出したということがよくわかる構成となっている。
本書の構成がユニークなのは、それぞれの歴史的な出来事に対して、歴代の大統領がどのようにその事件と向かい合ったのか・・ということをまとめて一つの章としていることだ。(今はそういう言い方をしないのかもしれないが・・)歴史を書く時には、編年体か紀伝体のどちらかと考えているような人間にとっては、ちょうど歴史を輪切りするようなこのアプローチはかなり興味深かった。
残念だったのは、自分が読みたいと思っていた全斗煥が対象との大統領として取り上げられていなかったこと。あとがきには、まさに光州事件の影響で全斗煥に関する「客観的な資料」がなかなか手に入らないことが、取り上げられなかった理由として記載されていた。木村先生ほどの方がそのように言うのであれば、おそらくその結論は間違いないのだろう。今後全容が明らかになるのか、あるいは歴史の1ページとして「ありうべき像」として語り継がれていくのかはわからないが、それだけ韓国現代史の中でも扱いの難しい事件だということなのだろう。
« 戦場としての世界(3)- アジア・中東・宇宙と紛争は世界中に - | トップページ | NETFLIXで”監視資本主義: デジタル社会がもたらす光と影”を見た »
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 外から読んで面白い官僚の仕事は中ではあまり評価されない: 金融庁戦記 企業監視官・佐々木清隆の事件簿(2024.04.02)
- コロナ禍を学習の機会とするために: 『1100日間の葛藤 新型コロナ・パンデミック、専門家たちの記録』(2024.03.30)
- 巨大企業は国を守るための盾となれるのか: 書評 半導体ビジネスの覇者 TSMCはなぜ世界一になれたのか?(2023.11.16)
- 鉄火場じゃないと飽きちゃうタイプのリーダー: 書評 ソニー再生 変革を成し遂げた「異端のリーダーシップ」(2023.11.11)
- [書評]仮説とデータをつなぐ思考法 DATA INFORMED(田中耕比古)(2023.10.19)
« 戦場としての世界(3)- アジア・中東・宇宙と紛争は世界中に - | トップページ | NETFLIXで”監視資本主義: デジタル社会がもたらす光と影”を見た »
コメント