読んでみた: 新解釈 コーポレートファイナンス理論――「企業価値を拡大すべき」って本当ですか?
昨年10月に出版されて「わかりやすい」「面白い」と評判になっていたファイナンスに関する本書を、ようやくGWで読み終えることが出来た。このエントリーを書くために出版日と購入日をみたら、いずれも10月で”流石に本を読まなすぎなんじゃ・・・”と反省してしまった・・。
本書はタイトル通りコーポレートファイナンス理論を、わかりやすく知識のあまりないビジネスパーソンにもわかりやすく伝えるということを目的に書かれたように見える。「企業価値を拡大すべき」って本当ですか?とやや挑戦的なタイトルが付けられているが、その答えは最初の方に、コーポーレートファイナンス理論にはそのような規範的な意味合いはないとあっさり回答が提示されている。 その後の本書内の話の展開を見ると、おそらく著者はこのタイトルに含まれていること、つまり世の中のビジネスパーソンが常識だと思っていることはファイナンスの理論から見た場合には正しくないことがある、と言うことを伝えたかったのだろう。
ネット上では本書はとても分かりやすいと評判だったのだが、その点については少し注意が必要だと思う。 タイトルにもある通り本書は「新解釈」を提供することが1つの目的なので、世間に流布している、あるいはオーソドックスな解釈と言うものは事前に理解しておく必要がある。 数式は全く出てこないし、基礎知識ゼロでも読み通すことができると思うが、初級のファイナンス理論をしている方がより面白く読めるだろう。
個人的には理論的な考察が提供される前半よりも、世の中のホットトピックに対してファイナンス理論から切り込んでいく後半の方が面白く読むことができた。特にESG投資に関しては自分もやや懐疑的だったので、少なくとも理論上は、あるいはこれまでのところ実証されたデータでは特に有利な点がないと言うのは頷けるところだった。
また、時々行間から発露するような形に関する熱い思いが伝わってくるのも本社の魅力だと思う。経営には理念が必要であり、理念を実現するためにビジョンがあり、ビジョンを実現するために経営計画や戦略があるとシンプルに語ることができると言うのは、著者が実務とアカデミアの世界を両方経験してるからだろう。 実務にどっぷりつかっていると理念やビジョンは単に「ビジネスの成果を実現させるための1つのツールでしかない」という感覚をどうしても持ってしまうのだが、本書のように真正面から取り組むことが、 実は長期的な成長と成功には欠かせないのではないだろうかと考えるきっかけとなった。
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