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2023年6月

2023年6月20日 (火)

大衆皆喜に関わった人間による”『ゼクシィ』のメディア史: 花嫁たちのプラットフォーム”の感想(2/5) : 編集としての視点

その1から続きます)

ゼクシィという媒体のメディア的な変遷を辿る「ゼクシィのメディア史」は、雑誌という視点からその記事や雑誌の姿勢について考察を行っていた。しかしゼクシィは通常の”雑誌”とは異なり、リクルート社の発行する”情報誌"である。そこには、雑誌とは異なる視点での特集や編集記事の設計が行われていたことを指摘したいと思う。


読者を動かす仕掛けとしての編集

リクルートが発行する情報誌というのは、最終的にその広告記事を通じて、読者(リクルート用語ではカスタマーと呼んでいた)が広告出稿元(同じくクライアントと呼ぶ)への応募や資料請求などのアクションを促すことを目的に発行されている。言い換えれば、どれほどコンテンツとして面白くてユーザーの支持率が高かったとしても、ユーザーがアクションを起こしてくれなければ、商品としては失敗なのだ。

この考え方は一般的にリボン図という概念で整理がなされている。リボンの両端にいるのがカスタマーとクライアントで、リクルートはその提供する場でマッチングを起こすというのが、その図の示すところだ。この図自体は本書の中でも言及がなされており、著者も認識はしていたはずだ。しかし、残念ながらこのリボン図という概念が編集記事やコンテンツ制作にどのような影響を与えたかについては、ほぼ言及がない。

 

著者も指摘しているように、元々ゼクシィは閉鎖的だったブライダルマーケットにおいて情報を直接提供することで、カスタマーの選択肢を最大化させるということを創刊時の目的の一つとしている。この目的自体はリクルートの情報誌の中では決して珍しいことではなく、情報の非対称性をメディアを用いて是正するというのはリクルートの事業領域を決定する際の一つの基準となっていた(採用領域や住宅領域が代表的な例だ)。

情報誌のコンセプト自体が上記のように定められている以上、掲載されるコンテンツや記事が、カスタマーの強い行動変容を促すものになっていくのは当たり前だ。また実際に中にいた感覚からするとゼクシィはリクルートの中でも、かなり思想性の強いビジネスだった。それぞれのビジネスごと単にビジネスの増加以上に何らかの価値を世の中に提供したいという気持ちはあったが、ゼクシィは”ハッピーな結婚”に対して思い入れの強い人間が多い部署だったという記憶がある。

 

時代のちょっとだけ先をいく切り口の提供

ただし繰り返しになるが、リクルートの情報誌はカスタマーが”動いてくれてなんぼ”のビジネスである。あまりに強い思想性や読者層の仮定による編集方向性の設定は、その”動かす力”を弱めてしまうことになる。実際に自分が在籍している短い期間の間にも、編集長(リクルートにおいてはメディア側の事業責任者という意味合いになる)の提供したい方向性がマーケットとずれており、あっという間にビジネスが低迷してしまったメディアを見たことがある。

そういったビジネス上のプレッシャーを抱えている編集側は結果として、まさに本書の中でも言及されているように「時代の少し先をいく」編集記事やコンテンツを提供している。言い換えると、情報誌のコンテンツは決して時代の雰囲気(あるいは競合などが作る記事やコンテンツ)とは無縁ではなく、追いつ追われつの関係にあったといえるだろう。そこには確かに編集側の意思が存在していたが、それは「ビジネスがうまく回るという前提」を置いた上での意志であり、世の中に”自分が感じる”新しい価値観を提供するというメディアが時にとるような意思決定はリクルートではなされないことが多かった。

 

また本書でも触れられているように、ゼクシィという情報誌は結婚情報が必要なある時期に集中して購入される傾向が強い。本書では4冊(4ヶ月)で記事が一周するようにとあったが、編集記事の台割設定は年間単位で何回か回るようにある程度決定されていることが普通だった(※1)。通常の編集記事は「定番記事」「季節の記事」「ちょっと攻めた記事」のような形で分けられており、それぞれの台割の中で具体的な内容を決定していくのだ。

そしてこの編集コンテンツにはもう一つ、情報誌ならではの「クライアント側要望に合わせた編集コンテンツ」という枠が存在する。

 

広告側ニーズに基づく編集記事

「時代の少し先をいく」情報というのは、決して明確に目に見えるわけではない。そういったセンスのある人間にはなんとなく匂いのようなものがわかるのだろうけど、少なくともSNSやその他のメディアで”これが時代の少し先をいく情報ですよ”とラベルが貼ってあるわけではないのだ。もしそういうラベルが貼ってある情報があったとしたら、それは「時代と同じスピードで消費されている」情報か、「誰かが先だと宣言したい」情報のどちらかでしかない。

しかし情報誌を扱っているリクルートには、その兆しを掴むための方法がいくつもある。一つはもちろん読者 = カスタマー側の反応。そしてもう一つが広告コンテンツを提供するクライアント側からの情報だ。
情報誌に掲載されているクライアントは色々だから、定型情報を載せ続けたり、あるいはリクルート側(制作スタッフやカメラマン)の提案だけに頼るクライアントも存在する。しかし彼らもビジネスである以上、常に顧客(この場合はブライダル情報を求めている読者)のニーズをつかみたいと思っているし、時には新しい企画や取り組みを行っている。

 

情報誌を発行しているリクルートは時に、そういった顧客の取り組みを応援するような企画を組むことがある。これはいわゆる有料PR記事とは異なり、あくまで企画判断は編集側によって行われている。そして、そういった特集を組むことでより多くのクライアントが掲載やサイズUPを考えてくれるのであれば、編集側も積極的に企画を行なっていくこともある。

言い換えると特集や編集記事というのは、読者 = カスタマーに情報を提供するための切り口であるというだけではなく、情報誌ビジネスを経営しているリクルートにとって売り上げUPのチャンスにもなりうるということだ。もちろん編集側はカスタマーにとってマイナスとなるような企画を組むことはないだろう。しかし、編集コンテンツは売上というファクターによっても決定が左右されるし、それは時にはクライアント側が生み出そうとしているトレンドや流れを追いかけるものでもあったということは、意識しておいた方が良いだろう。

 

※1 ・・・自分のリクルート時代の上司は「彼女がゼクシィを買い続けて家の中で塔のようになり、これ以上買うと崩れてきて危ない」と感じたので結婚したという人だったので、彼氏にプレッシャーをかけるために買い続けるという人もいたかもしれない。

2023年6月15日 (木)

今更ながら無症状コロナにかかってしまった

スケジュールに余裕がある6月の間に人間ドックに行こうと予約を入れたのが4月の後半。その病院(国立の大病院だ)では、人間ドックの受診者には一律でコロナ感染確認のためのPCR検査を実施しているとのことだった。

「1週間前〜2日前にPCR検査のために来てください」と言われて、正直なところ全く有用性がわからないまま昨日病院に行って検査を受けたら、なんと・・・コロナ陽性。いわゆる「無症状のコロナ感染」ということで、人間ドックの本番は受診できないことになってしまった。ちゃんと意味ある検査だったんだな・・馬鹿にしてごめんなさい(それでも1週間前だったら、その間に感染する人もいるんじゃないの・・と思ってしまう)。

 

実を言うと無症状と言っても、本当に何もなかったのか・・と言われると、ちょっと自信がない。ちょうど1週間前から、少し喉が痛いのと、やや疲れやすいと感じていたからだ。ただし喉に関しては中国生活で痛めてからすぐに腫れるようになってしまったし、疲れやすいのは年齢のせいもあると思っていたので、まさかコロナにかかっているとは思いもよらなかった。これで「コロナの疑いあり」だったら、自分は年6回ぐらいはコロナにかかっていることになる。発熱は一切ないし、味覚も正常。鼻水も出てないし。

3年前の心臓ステント手術は行政的には「高リスク」には入っていないが、主治医から「何があるかわからないので、ワクチンはちゃんと打ちましょう」と言われており、毎回欠かさずワクチンを打っていたのが良かったのかもしれない。家族も少しだるいと言っていたが、最近になってクーラーをつけて寝るようになったので、そのせいとばかり思い込んでいた。ちなみに小学生の息子も含めて、我が家はフルワクチンである。

 

すでに喉の痛みも治まっているし、はっきり言って「ただの風邪」以上では何もなかったので、なるほどワクチンを打っておけば”コロナはただの風邪”は間違いではないのかもしれない。もうどこで感染したのかもわからないし、そもそも人間ドックのためでなければ自分がコロナになったかも・・と言う想像すらしていなかったので、きっと世の中にはこんな感じの人がゴロゴロいるんだろう。

2023年6月13日 (火)

大衆皆喜に関わった人間による”『ゼクシィ』のメディア史: 花嫁たちのプラットフォーム”の感想(1/5)

タイトルを何度か変えて15年近く続けているこのblogの最初の投稿は2007年11月になっている。自分がリクルートの社員として上海に駐在し、ネット版の大衆皆喜を作っている時だ。自分は2008年末にはリクルートを退社してしまったので、その後の大衆皆喜には関わっていないが、人生の中で最も仕事をしたと言っていいネット版の開発は、自分にとって特別な思い出だ(いい意味でも悪い意味でも)。

その大衆皆喜を含んだであるゼクシィの創刊から現在までを、”メディア”という観点から研究したのが本書だ。本書の存在はTwitterで偶然見つけたのだが、大衆皆喜に関する研究など滅多にあるものではないので、自分が読まなければ誰が読むのだ・・という気持ちで手に取ってみた。自分はいわゆる「中の人」なので、読んでいる中で感心する部分もあれば、ちょっと違うなという部分もある。せっかくなので、複数回に分けて感想を残しておこうと思う。


読み物としての面白さとビジネス視点の欠如

自分は工学系の卒業であるし、その後はずっとビジネスの現場にいる人間なので、いわゆるメディア・スタディというのは完全に門外漢の人間だ。その自分にとっての本書の最初の感想は、とにかく読みやすく知的興奮に溢れているということだった。博士論文を元に出版された・・と後書きにはあるので元は論文形式のはずだが、商業出版物として読んでも全く違和感がない。これは著者の前職が記者だったということもあるかもしれないし、あるいは編集の方が優秀だったのかもしれない。いずれにしても研究書を読むなんて敷居が高い、と思う人がいたら、恐れずに手に取ってほしい。

またリクルートという極めて利益率の高い企業が出す情報誌を外から見るとこのように見えるのか・・といった視点を知ることができたのも素直に面白かった。特にゼクシィが最初から結婚情報誌として作られたわけではなく、広く恋愛領域をカバーしたものだというのは、知識としては知っていたが本書を読むまでは全く実感を持っていなかった。
本書にある通り今では結婚のバイブルにまでなったゼクシィが最初はXY染色体から取られた名前だなんて、ほとんどの人が知らないだろう。来歴が知られなくなっても固有名詞として残り続けるというのは、仕事としてはとても誇らしいことだと思う。

 

一方で本書はゼクシィという収益を生むための"情報誌"をあくまで、雑誌という観点から取り上げているため、リクルートにいた人間からするとビジネス視点の欠如というのは大きな違和感を感じる部分だった。”情報誌”と”雑誌”の違う点は色々とあるが、一番の違いはそのビジネスモデルにある。

一般的な雑誌というのは、メディア上にあるコンテンツに興味を持った読者(あるいはユーザー)に対して広告をつけることでビジネスが成立している。この広告というのはユーザーが興味関心を持つようなものである必要があるが、必ずしも特定の領域に閉じる必要はない。
一方でリクルートの発行している情報誌は、”広告そのものが主要なコンテンツ”である。コンテンツ+広告、ではなくコンテンツ = 広告なのだ。ここに雑誌と情報誌のビジネスモデル、そして利益率の大きな違いがある。

本書は繰り返すが「メディアとしてのゼクシィ」を対象としているため、このようなビジネス領域にまでカバー範囲を広げてしまうと焦点がぶれてしまうという懸念があったのはよくわかる。なので、自分もビジネス視点がないことが本書の”欠点”であるとは思わない。これから数回に分けて書く感想は、本書の素晴らしい研究成果に対して、ビジネス的な視点を補完するためのものだと思ってもらえると嬉しい。

感想としては以下の内容をざっとまとめて書いていこうと思う。

- 編集としての視点: 読者を動かすための仕掛けづくり
- 情報誌としての視点: 広告こそがコンテンツ
- 発行者側の視点: マッチングの場としての情報誌
- ビジネスとしての視点: 大衆皆喜のビジネス的な失敗点

 

2023年6月 5日 (月)

運動会後の慰労で焼津に行ってきた

集団行動が難しい息子にとって、運動会は学校生活の中で最もハードルが高いイベントの一つだ。子供たちが予測不可能な動きをするし、音もうるさい。真夏とまでは言わなくても十分に暑いし、見知らぬ大人が周りにたくさんいる。こういったビハインドな状況では、その場にいることさえかなり難しい。一年生の時にはまだ動きが簡単だということもありダンスには参加できたが、昨年は運動会関連はほぼ全欠席だった。

今年も練習はあまり参加できず、本番に参加することも出来なかった。ただ「昨年よりは少しは前に進もうね、少なくとも本番は見ようね」という約束をしっかりしていたおかげで、雨天順延の日曜日に観客として参加することが出来た。他の家庭から見たら大したことがないだろうが、我が家基準では大進歩である。

 

こういった大イベントでは本人だけでなく家族も精神的に疲弊するので、運動会が終わった午後から慰労を目的に近場に旅行に行くことにしていた。今回に限らず旅行先を見つけるのは妻の役目なのだが、今回は焼津にある湊のやど 汀家(みぎわや)という旅館を予約してあった。海なし県に生まれた彼女は、海が見えるような場所が好きなのだ。

 

焼津は、東京からは新幹線で静岡駅まで1時間ちょっとかかり、そこからは東海道線に3駅という場所にある。有名な観光地があるわけではないので、焼津に行ったのは生まれて始めてだ。いわゆる「温泉街」みたいなものはなく、今回の旅館はポツンと一つ立っているだけだった。館内の由来を見ると小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)に由来があるらしい。今回行った旅館の近くには焼津港があるが、一泊二日の自分達は軽く散歩しただけだった。

おそらくメインの客層はシニア層だと思うのだが(少なくとも若いカップルがいくイメージはあまりない)、こじんまりとした敷地とアットホームな雰囲気は、家族連れにとっても大変良いものだった。部屋にお風呂があり、夕食も全て部屋で済ませることが出来るのも嬉しい。我が家のようにアクティブではない家族にとっては、部屋でダラダラしながら窓から風景を見るだけでも十分に満足なのだ。料理も名産のマグロがたくさん使われており、ボリュームもかなりある。

温泉は海に近いということもあり、塩水が混ざっている柔らかい泉質で、浸かっているだけで体の疲れが溶け出していくような感覚を味わえる。部屋のお風呂はこじんまりとしているが、午後であれば露天風呂を1回45分の貸切で入ることもできる。東京から2時間以内で行けて、ほとんど混雑していないという隠れ家的スポットとしてはかなりお薦めだ。我が家のメンバーも全員満足度が高かったので、きっとまた遊びにいくと思う。

2023年6月 3日 (土)

スタートアップ雇われ役員が感じる信託SOの税制判断と影響(その2)

その1に続いて信託SOの税制判断とその影響について、雇われ役員の立場から感想を書いておこうと思う。

 

その1の最後で書いたように、今回の判断では「信託SOが給与扱いになる」という発表に加えて、SO発行時の株価は純資産ベースで行って良いとの発表があった。これは信託SOの税制以上に大きな判断だし、スタートアップに「雇われて働きたい」人にとってはメリットが非常に大きい解釈だ。

これまでSO発行時のスタートアップの株価というのは、資金調達における株式価値評価を元に行われていた。多くの場合VCなどからの資金調達は優先株で行われるため、普通株の株価をもとに算定されるSO発行時の株価と資金調達時の株価は異なるが、あまり大きな乖離を設定することは難しかった。これは一言で言ってしまえば「シリーズが進むほど株価は上がり、SOの旨味は減っていく」ということになる。
このこと自体はリスクとリターンの関係を考えれば悪いことではない。しかし一方で調達時の株価が高すぎる場合に、その後に事業の整理を行わなければならない際にSOの価値がほとんどなくなってしまうという事態が発生してしまう。これは困った時にこそ優秀な人材を必要とするスタートアップではかなりのハンデとなる※1

今回の発表により、こういった問題は考えなくても良くなった。IT分野でのスタートアップは純資産がすくない企業は多いだろうし、経営的に難しい状況であれば純資産は減っている。うまくタイミングでSO発行を決議すれば、極端な場合には1円で発行することが可能となる。

 

ただし今回の発表がそのまま採用されたとしても、SO発行に関して考慮しなければならないことが大幅に減ったわけではない・・というのが、個人的な感覚だ。その要因は大きくいうと2つある。
1つは、これまでは上記のように後期に「参加した人は発行価格が高い」という形でリスク・リターンをうまくバランスさせていた部分を、他の形で取らなければならなくなってしまったということ。SO発行可能な割合には限界があるので、これまで以上に発行時の対象設定と割合設計には気を使うことになるだろう。特にレイターで参加してくる幹部(上場実務に精通している人が多い)にもある程度の割合を持たせつつ、古くからの人間とバランスを取る部分は、これまで以上に難しくなりそうだ。

もう1つは創業者へのSO付与だ。株式の保有バランスを取るために優先株発行じに創業者にSO権利を付与するということはしばしば行われるが、これが普通株式よりも低い価格で出来るようになると、創業者自身へのメリットが大きくなりすぎる可能性がある。今回の金額算定はあくまで税制適格の範囲内とはいえ、創業者のバランス感覚(モラル)が問われるようになるだろうと思う。

 

雇われの身からすると、日本のSOのベスト開始タイミングの問題やセカンダリーマーケットが全くないことなんかは依然として問題だとは思っているものの、この辺りはもう少し先にならないと手がつけられないだろうと想像する。信託型SO発行企業のCFOは今頃は早速対応を進めているだろうけど、これまで使えた「上場後に割り当てる」は出来なくなってしまうわけで、どのタイミングで再発行を行うかという問題に悩んでいるのではないだろうか。

※1・・・ダウンラウンドを既存投資家が許してくれれば対応可能だが、現実的にはかなり難しい。

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