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2023年7月12日 (水)

大衆皆喜に関わった人間による”『ゼクシィ』のメディア史: 花嫁たちのプラットフォーム”の感想(3/5) : 情報誌としての視点

(その1その2から続きます)

ゼクシィという媒体のメディア的な変遷を辿る「ゼクシィのメディア史」は、雑誌という視点からその記事や雑誌の姿勢について考察を行っていた。しかしゼクシィは通常の”雑誌”とは異なり、リクルート社の発行する”情報誌"である。そこには、雑誌とは異なり「広告そのものがコンテンツである」という考え方が根底にあるということを指摘したいと思う。


読者(カスタマー)が見たい情報とは

今のようにネットビジネスが中心な時代ではおそらく実施されていないと思うが、昔のリクルートでは入社すると「リクルートが取り扱っている情報誌」と「雑誌」の違いは何か・・ということを、必ず研修で習っていた。一言で言えば、後者は「情報を見たい人が手に取り、広告を見せる」というビジネスであり、前者は「広告こそが読者に見せたい/見せるべき情報」だと学ぶ。

江副氏が立ち上げた創業ビジネスである「企業への招待」は、新卒学生に対して求人広告のみを一冊にまとめて届けるというビジネスモデルだった。彼は東京大学在学中に経験した、大学新聞の営業として求人広告を取ってくるという成功体験から、求人情報のみを一冊にまとめる本には読者(カスタマー)側にも、企業側(クライアント)側にもニーズが存在すると感じていたのだった。そしてその企業への招待には、編集記事と呼ばれるような情報はなかった。

時代と共に情報誌ビジネスも進化していき、いわゆる雑誌のような形を持ったビジネスもリクルートは展開していくようになる。しかしそれでも、リクルートのDNAに近いところで、自分達が作っているものは「情報誌である」という感覚は残っていた。カスタマーがリクルートの情報誌に求めるもののうち、広告コンテンツそのものは大きな比重を占めているということだ。
これは言い換えると、編集側は広告コンテンツをどのように見せるのか・・ということに対して、大きな責任とこだわりを持っていたということを意味する。

 

台割こそがリクルート編集の腕の見せ所

一般的な雑誌では台割というと「雑誌一冊の中でどのようにコンテンツを配置していくかを示した設計図」という意味になる。そしてこれがリクルートの情報誌になると、上記の意味に加えて「広告コンテンツをどのように整理して、カスタマーに届けやすくするか」という意味が付け加えられる(※1)

インターネットによるメディアや検索が当たり前になる前、あるいはWEB上でのマッチングメディアが当たり前になった現在においても、情報を短時間で大量に読むことを目的とした場合には情報誌や雑誌の方に優位性がある。一方で、物理的に印刷を行わないといけない紙メディアでは、複数の検索軸に対してクライアントの広告を提示するということが出来ない。そのため、読者に提示する検索軸あるいはカテゴリーは情報を届ける上で非常に重要な要素となる。

ゼクシィのように広告コンテンツが膨大な情報誌では、それだけ一つの広告がカスタマーの目に留まる可能性が低くなる。特にページの前の方に配置されるような大型ページ(1ページや見開きページ、あるいはそれ以上のページ数)を購入することが出来ないクライアントに効果を返す == カスタマーからの問い合わせや資料請求を増やすためには、カスタマーの興味関心に合わせた適切な検索軸を設定することが欠かせない。

ここで重要なのは情報誌が設定する検索軸は、単純に商品カテゴリなどの明らかな可能なものだけではなく、カスタマーの興味関心に合わせたものも設定されているということだ。カスタマーのさまざまな方向性を持つ興味関心のうち、どの軸をピックアップし、どのように配置するかという、いわば「広告コンテンツの編集」は単なる情報整理以上の意味を持つのである。言い換えれば、そこには時代時代の編集側の意図が必ず込められていたと言えよう。

 

クライアントとカスタマーの相互作用

その前提を置いた上でさらに重要なのは、特集や検索軸の設定ではクライアント(広告提供側)とカスタマーの相互作用が働いていたということだ。結婚に関する世の中のトレンドや流れは、必ずしも結婚やブライダルと呼ばれる領域だけで作られるものではない。すでにその2で書いてきたように「時代の空気」というものは確かに存在するし、カスタマーはその空気に合わせて少しずつ情報を吸収するためのフィルターの透過度を変化させてくる。

広告を出すクライアントは当然ながらその変化に敏感であり、商品や提供サービスを変化させてくる。仮にこの変化を「カスタマー主導の変化」と呼ぶとしよう。しかし情報誌ビジネスにおいては、時に競合との差別化や新規カテゴリー創出に積極的なクライアントが、新たな検索軸や考え方、カテゴリーを提案してくることがある。彼らから見るとそれは自社のマーケティングや事業戦略上の変化なのだが、情報誌上の広告コンテンツにおいては新たなトレンドが提案されていることになる。こちらの変化は「クライアント主導の変化」と呼ぶこととしよう。

リクルートの情報誌の編集は、このカスタマー主導の変化とクライアント主導の変化をうまく相互作用させることで、情報誌を通じてのマッチングをより活性化させるだけではなくマーケットそのものを成長させてきた。もちろん、クライアント主導の変化は編集が主導する場合もあるし、担当営業が主導する場合もある。

いずれにしても、情報誌の編集においては時にカスタマー側のニーズ以上にクライアント側のニーズを重要視する場面があるということだ。もちろんカスタマー側のニーズに合わなかったものは、一定の期間を経て淘汰をされていく運命にある。そもそもクライアントも広告効果を向上させることを狙っているのだから、新たな取り組みがうまくいかなかった場合には戦略を変更するのは妥当な行為だ。ただしその第一歩となる取り組みを世の中に提示できるかどうかは、編集側のサポートが必要になる。


以上のことから、情報誌における出版側(ゼクシィの場合はリクルート)の意図や姿勢をより正確に分析しようと思うのであれば、記事だけではなく広告コンテンツの分析を行うことも求められるのだ。「ゼクシィのメディア史」はこの点においては、広告コンテンツに関する言及がほぼなく、実際に情報誌を作っていた部門に所属していた自分には片手落ちに感じられたのだった。

 

※1・・・私が在籍していた時のリクルートは事業部制を採用しており、事業部ごとに言葉の使い方がかなり違っていたので、部門によっては広告コンテンツの整理軸を、台割という言葉を使わずに表現していた可能性はある。

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