勉強している内容の備忘録: マンキュー経済学 マクロ経済 第8章(貯蓄、投資と金融システム)
第7章「生産と成長」では、家計における貯蓄が投資に回ることによって経済が成長するという議論が展開された。本章ではその議論における疑問点である”貯蓄はどのような経路で投資に向かうのか“に関して学ぶことになる。そしてその経路において重要な役割を担うのが、金融システムである。
マンキュー経済学 マクロ経済 第8章: 貯蓄、投資と金融システム
本章ではまず金融システムを学ぶためのとっかかりとして、アメリカにおける金融システムの紹介からスタートする(本書は当初はアメリカの学生に向けて書かれたのだから当然だろう)。日本の読者にとっては必ずしも必要な情報とはいえないので、ここでは金融市場において代表的なものとして「債権市場」と「株式市場」の2つがあるということを把握しておけば良いと思う。
ただここでサラッと実務上の基礎知識として重要なこととして、以下の2点が書かれていることは記録しておきたい。
- 債権市場においては、長期債の方がリスクが高く、その結果として利子率が高く設定される
- アメリカの株式市場の典型的なPERは15となる。
● 国民所得勘定における貯蓄と投資 ●
このセクションでは貯蓄と投資の関係を学ぶにあたって、閉鎖経済における国内総生産の恒等式を用いる。
まず、閉鎖経済においては以下の恒等式が常に成り立つ。
Y = C + I + G (Y:GDP, C:消費, I:投資, G:政府支出)
この式を変形して投資のみを右辺におくと、以下の関係が成り立つ。
Y - C - G = I
左辺は国民所得から消費と政府支出を引いたものだから、貯蓄(S)とみなすことが出来て、次のように変形できる。
S = I (貯蓄と投資は一致する)
次に国民貯蓄(S)の意味をより深く理解するために、税金から社会保障などの”移転支払”を差し引いたものをTとおく。このTは定義から、”政府が支出に利用することが出来る額”ということが出来る。ここでTを用いた、国民貯蓄(S)を変形してみよう。
S = Y - C - G
= (Y - T - C) + (T - G)
右辺の第一項は民間貯蓄と呼び、「家計から税金Tを支払い消費をした後の額」を意味する(Tは税金から移転支払を引いたものであるので、いわば真水の税金と言える)。また第二項は政府貯蓄とよび、「(真水の)税収から政府支出を引いた額」になる。もしT-Gが正であれば財政黒字であり、負であれば財政赤字だ。
上記の式の変形から、貯蓄と投資の関係においては以下の2つをいうことができる。
- 経済全体においては貯蓄と投資の金額は等しくなる。
- 貯蓄は民間貯蓄と政府貯蓄の二つに分けることが可能である。
● 貸付資金市場 ●
上で書いたように貯蓄が投資に回るためには、何らかの仕組み(システム)が必要になる。この仕組みを単純化して説明するために、このセクションでは貸付資金市場という概念を導入する。この市場では全ての預金者がこの市場に貯蓄を提供し、全ての借り手はこの市場で資金を借り入れる。
ここで資金の需要量と供給量を決定するのは、利子率となる。ちょうど市場においては価格がシグナルとなったように、この資金市場では利子率が価格と同じ役割を果たすのだ。そして政府がとる政策は、この資金需要曲線、あるいは供給曲線をシフトさせる効果がある。
この曲線のシフトは 市場におけるシフトと考え方は同じなので再度記載はしない。ただ面白かったのは政府の財政赤字と財政黒字の考え方だ。
前のセクションで見た恒等式からは、 財政赤字は政府貯蓄のマイナスを意味するので、左辺である国民貯蓄も減少する。 つまり財政赤字は供給曲線を左にシフトする効果があり、資金需要は低下し、利子率が増加する結果を生む。
この効果は言い換えれば「 本来は民間に回るはずだった資金を政府が吸収してしまった」ということを意味しており、経済学の用語ではクラウディング・アウトと呼ぶ。 この効果は政府貯蓄の減少によってもたらされるので、減税にによっても生じることとなる。
本書ではこの部分で日本の財政赤字のグラフと米国の財政赤字のグラフが載せられているのだが、一貫して財政赤字が増加し続ける日本と言う国にいるとこの議論はかなり新鮮に感じる。 日本では失われた30年と言われているが、この単純化したモデルからだけ考えれば、景気対策のために行った財政赤字が結果として投資の減少をうみ、成長率を抑えていたことになる。
もちろん実際の経済においては財政政策だけではなく金融政策を組み合わせて行っているのでこのような単純な結論を導くことができないであろうと思うただこういった式を学ばなければ、財政赤字と景気の関係などを考えることもなかったわけで、ようやくマクロ経済学が面白いと感じられるようになってきた。
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