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2024年5月

2024年5月 9日 (木)

(勉強内容備忘録): Next 教科書シリーズ 国際関係論[第3版] 第II編 国際関係の現状分析

4月の半ばからだいぶ時間が経ってしまったが、”第I編 序論と歴史分析"に続いて、ようやく”第II編 国際関係の現状分析”を読み終わることが出来た。この章(編)では、第二次世界大戦以降から現在に至るまでの国際状況を概観しており、理論を学ぶというよりは状況を把握するための記載が多い。自然科学ではない分野においては、現実を解釈するために理論が発展する部分があるので、最新の理論を学ぶためには、まず現状をしっかり把握する必要があるということなのだろう。

この章(編)では大きく5つに分けて、現状が整理されている。

  1. 今日の国際関係
  2. グローバリゼーションの時代
  3. 現代の安全保障
  4. 北東アジアの政治と国際関係
  5. 国際社会における日本の位置付け

ページ数としては80ページ近い内容となるので、自分が気になった点やこれまでの知識がなかった部分を簡単にまとめておこうと思う。北東アジアと日本の位置付けについてはすでにある程度知識がある(北東アジアについては、本書で書かれている内容は必要最小限の理解だと感じた)ため、その部分は特にメモは行わなかった。

Next 教科書シリーズ 国際関係論[第3版]: 第Ⅱ編: 国際関係の現状分析


今日の国際関係(第3章)

今日の国際関係を分析するにあたっては、どうしても"9.11"はスタート地点として設定せざるを得ない。9.11の発生により、アメリカ政府は「バランス・オブ・パワー」を掲げるネオコンが政治的な力を握ることになり、アメリカはイラク戦争とアフガンでの戦闘を続けることになった。
オバマ大統領は戦線を縮小しようとしたが、必ずしも彼が望んだ通りにはならなかった。また核軍縮に取り組むことを表明しノーベル平和賞を受賞したが、こちらも自分が望んだほどの進展は得られなかった。

その後のトランプ大統領の誕生により、国際社会は「自国第一の時代」を迎えたということができる。本書が発行された時にはロシアによるウクライナ侵攻がまだ起こっていなかったが、もし第4版が出るのであれば、間違いなくページを割かれることになるだろう。

 

グローバリゼーションの時代(第4章)

本書によればグローバリゼーションとは「世界規模での経済。社会の統合・一体化」を指しており、次の4つの特徴を持つ。

  1. 地域間の交流量の増大
  2. 相互依存の深化
  3. market economy(資本主義)の拡大
  4. ルールや価値観の世界規模での結合

グローバリゼーションという単語を使うとどうしても最近100年ちょっとの出来事と考えてしまうが、国際史的に見ればそのスタートは1492年のコロンブスにその発端をみることが出来る。当時は「情熱と冒険心」「交易と収奪」、そして「キリスト教の布教」が大きなモチベーションだったが、その後もグローバリゼーションは進み続けた。
その動きが20世紀末になって加速したのは、冷戦の終結や規制緩和・貿易自由化などの影響もあるが、やはり技術進化の影響が大きい。特にICTの進化により地球は急速に小さくなった。グローバリゼーションは貧富の拡大といった問題を起こしているが、同時に人類全体を見れば絶対的な貧困者数が少なくなっていることも忘れてはならない。

一方で1999年のWTOシアトル会議でのNGOの活動以来「反グローバリゼーション」の動きが明確になっている。これは新自由主義的グローバリゼーションに対する対抗軸として捉えることが可能であり、グローバリズムに対してローカリズムの重要性を強調することが多い。しかし現実にはグローバリズムとローカリズムは補完的な関係にあり、グローバリズムへの抵抗運動としてよりローカルコミュニティが発展することもある。

このグローバリゼーションの広がりを理論的に分析するにあたっては、新自由主義政策についての理解を深めることが重要になる。新自由主義的政策は、戦後のケインズ主義に対するカウンターとして生まれた考え方であり、ミルトン・フリードマンがその理論的構築に大きな貢献をした。グローバリゼーションはこの新自由主義的な考え方を一つの柱として拡大してきたのであり、グローバリゼーションに対する態度はこの新自由主義的政策に対する態度であるとも言える。

 

現代の安全保障(第5章)

安全保障に関する研究は、過去数十年間にわたって国際関係論の主要なトピックだった。長い間、軍事や外交といった国家の安全に直接関わる分野を「ハイポリティクス」、経済や社会問題を「ローポリティクス」と呼んでいることからも、その位置付けがわかる。

歴史的に見れば、大国間(主にアメリカとソ連)の安全保障は大量報復戦略(massive retaliation)から相互確証破壊(MAD)へと発展し、デタントにより単独での安全保障(国家安全保障)から国際安全保障へと関心が移っていった。また冷戦終結後は、国家ではなく「人間集団の安全保障」とその対象が変化してきている。
また9.11以降は国家だけでなく非国家アクター、つまりテロリストや武装集団などについても考慮をする必要が出てきている。


安全保障の伝統的な議論では、まず自国の安全を守る(補償する)ことにまず着目をする。単純に考えれば、相対する国家、あるいは仮想敵国よりも強力な軍事力をもてば安全が保障されるはずであるが、相手も同様の思考をすれば際限のない軍事拡張が論理的帰結として発生する(安全保障のジレンマ)。そこで複数の国家が同盟を組むことで安全を保障するという、集団安全保障(collective security)の概念が導入された。

また二つの世界大戦を経験したヨーロッパではより地域の安全保障を深化させるために、敵対する同盟同士が戦争を回避しようとする「共通の安全保障(common security)」や、地域に属する国家が協調的に行動する「協調的安全保障(cooperative security)」という概念が導入された。一方でアジアの場合には、そのような地域協力は進んでおらず、台頭する中国と、そこに対抗する日米韓という構図になっている。


最近ではこの国家間の安全保障を取り扱う「伝統的安全保障」に加えて、非軍事領域でトランスナショナルな性質を持つ「非伝統的安全保障」の概念も重要となってきている。これは人間の安全保障とも通じるが、”恐怖”や”欠乏”からの追及を行う概念となる。
この非伝統的安全保障研究の発展に大きく寄与したのがコペンハーゲン学派と呼ばれるグループであり、安全保障を軍事・環境・経済・社会・政治の5つのカテゴリーに分類するという分析の枠組みを提示した。またコペンハーゲン学派は、ある問題が国家/非国家アクターによって安全保障の問題として規定され、合意されることで問題が「安全保障化(securitization)」されるという枠組を提示している。

2024年5月 7日 (火)

Amazonの人事政策と自らの仕事を結びつける「構成の巧さ」: (書評)テックラッシュ戦記 Amazonロビイストが日本を動かした方法 (その2)

先日のその1では、本書『テックラッシュ戦記 Amazonロビイストが日本を動かした方法』に書いてある”ロビイングの仕事”と、”Amazonにおけるロビイング”について簡単にまとめて紹介をした。後半の今回は、本書に記載してある実際の事例についていくつか紹介をしていこうと思う。

事例紹介とAmazonの人事ポリシーを結びつける

最近では”パーパス経営”といった言葉がすっかり日本でも定着したように、企業が存在する目的やいわゆるMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)といった言葉は日本企業でも普通にあるようになった。ただし日本企業では、実際の現場でこれらの概念が有効活用されている場面というのはほとんどないと思う。

その日本企業に比べれば、こういった考え方は早くから採用していた欧米企業はもう少し現場の判断基準としてパーパスやMVVを活用している。リーダー達の言葉にもよく出てくるし、(少なくとも公式には)昇進の際の基準値の一つになっている会社も多い。とはいえ、数字や結果には日本企業よりもずっと厳しいアメリカ企業ではこういった考え方”だけ”で生きていけるほどは甘くはない。Amazonには友人が何人も勤めており話を聞区限りでは、比較的真面目に運用をしている会社のようだが、それでも現実はマネージャーやリーダー次第といったところだろう。

本書が構成として上手いのは、この時にお題目になりがちな考え方を、Amazonで実際に著者が手がけた仕事とうまく結びつけているところだ。単に事例を紹介するだけだと退屈なものになりそうなところを、Amazonの人事ポリシーである"Amazon Leadership principle"と結びつけることで、それぞれの事例に明確な意味を持たせることに成功している(穿ってみれば、そうやってAmazonの良いところを紹介するという建て付けでないと、事例開示の許可が降りなかったのかもしれない)。

例えばコロナ禍を通じて、すっかり一般的になった「置き配」を働きかける仕事では、AmasonのCustomer obsession(お客様視点の第一優先)とDeliver input(ビジネス結果を生み出すインプットに集中する)に結びつけている。なぜなら「置き配」を実現することが出来れば、顧客はより簡単に荷物を受け取ることが出来ることで、満足度という要素を向上させることが出来るからだ。

ちなみにこの「置き配」の実現、一般市民からすると単に荷物を置いておくかどうかの問題で宅配業者と顧客の関係性だけを気にすればいいのではないか・・と感じてしまうのだが、ロビイストからすると解決しないといけない法律的な問題がちゃんと存在しているらしい。例えばマンションの中で荷物を置くことは”消防法”に抵触する可能性があるし、所轄官庁によっては荷主と輸送事業者をごっちゃにした議論を展開しようとしていたからだ。こういった行政における縦割りから発生する問題をうまく解決するのも、著者のようなロビイストの仕事の一つなのだ。

 

また自分が所属していたIT業界に関連するトピックとしては、金融機関におけるクラウド利用におけるルール作りが興味深かった。今では銀行によっては基幹システムの一部をクラウド化するという事例まで存在しているが、2010年代の初めは金融機関がクラウドを利用するには高いハードルがあった。というのも金融機関は情報セキュリティなどを含めた業務管理について金融庁の監督を受ける立場にあり、金融庁のその監督範囲にはIT統制も含まれているからだ。

本書にも書かれているとおり、それまでの金融業界におけるIT監査というのはオンプレミス(ハードウェアを自前で持つこと)を前提としたものであり、クラウドに対応するルールづくりは出来ていなかった。そのためクラウド事業者の観点からは時代遅れ・・というか、そもそものプロダクトの前提とルールの前提がずれているものが多かったのだ。例えばその最たる例が、本書でも取り上げられている「金融機関によるデータ保管場所の立入検査」だ。それまでは間借りしたデータセンターに自前のハードウェアを置く例が一般的だったので保管場所は明確だったが、クラウドでは保管場所を明確にすることは、クラウド事業者ですらも簡単ではない(文字通りのハードウェアの雲の向こうにデータが保管されているので)。そんな状態で、立入検査を行うことはいたずらにリスクのみを増やす行為であって全く意味がない。

著者の所属しているAmazon = AWSは業界のトップであり、彼らが基準を作ることは業界にとっても、彼らにとっても意味があることだったのは間違いない。ただもし著者の努力がなければ数年間は非現実的なクラウド規制が設定されていた可能性もあるわけで、著者の努力には業界の所属している一人として素晴らしい仕事だったと感じた部分だった(本書で最も感動した部分と言っていい)。


ロビイストが感じる日本の弱点

本書の最後の方では、”外資”の”ロビイスト”である著者が感じる日本の弱点というのがいくつか挙げられている。例えばそれは「企業経営の改革が必要である」といった当たり前のものから、「処方箋規制が染み付いた体質を変える必要がある」といった現場の観点まで様々だ。正直にいえば本書でなくても、あるいは著者でなくても言えることだという気がするだろう。

ただ本書の場合にその言葉がより重く響くのは、著者が20年近い年月を官僚として過ごしてきたという事実があるからだ。自分を含めて転職をする人間というのは、時に過去に所属していた組織のことを悪くいうことがある。「あんなに悪い組織だったから自分が辞めるのは当然なのだ」という感情を自分で持ちたいというわけだ。しかし本書を読んでいれば少なくとも著者はそう言った人間ではないことがわかる。そもそも転職したとはいえそのビジネス(ロビイング)の相手は中央官庁と政治であり、彼らのことを悪くいうのは著者にとって全くメリットがない。

それでも、行政の思考が実際には意味をなしていない「無謬性思考」であるまで言い切るというのは、著者の職業人生の半分への反省と、今後への期待が含まれているように感じられる。自分がやってきた仕事に価値がない、とは思わないだろうが、それをもっと有効にすることができただろうという反省が行間から滲み出てくるのだ。

2024年5月 6日 (月)

Prime Videoで井上-ネリ戦を見た: 武器の少ないネリはどのように井上に勝とうとしたのか

日本では山中戦以来「国民のヒール」の座に収まっているネリが無敗のチャンピオン井上に挑む試合を、Prime Videoでみることが出来た。
1ラウンドでダウンをした後はほぼ完勝と言っていい井上がすごいというのはのは誰もが思うけど、「相対的に武器の少ないネリがどう勝とうとしたのか」って観点でみると、すごくいい試合だった。こういうとアンチネリからは怒られそうだけど、その精神力と「なんとしても井上に勝ちたい」という気持ちが伝わってくる試合だった。

まず第1ラウンドの井上のダウン。あれは解説では“カウンター“と言ってたけど、実際には“肉を切らせて骨を断つ“覚悟がないとできないパンチだった。明らかにネリはあれを狙ってて、ショートアッパーを「前横に頭をずらして」フックを入れようとしていたと思われる。実際にダウンを奪ったわけだし、うまくいけばあれで試合を終わらせることができたわけで、ネリの狙いは外していなかった。

ボクシングではアッパーが来たら、頭を後ろにそらすか、手のひら(あるいは肘)で受け止めることが普通で、頭を前にずらして避けるのはめちゃ怖い。間違ってくらったら自分からパンチを迎えに行った形になってしまい、そこで試合が終わってしまう可能性もあるからだ。ただしそれでパンチに空を切らすことが出来ると、逆に打ち手の方の顔がガラ空きになるので絶好のチャンスになる。確か『はじめの一歩』でも、似たようなシーンがあった気がする。

この第1ラウンドの影響がまだ残っている第2ラウンドの間にネリとしては距離を潰して一気に決めたいところだったが、出会い頭でうまく合わされて今度はネリがダウン。これでネリとしては迂闊に飛び込んでからのショートフックという手が使えなくなってしまった。井上は右のガードを1ラウンドよりも少し上げて慎重に戦いながら、フックの軌道をインプットしていたようにみえた。

そこで第3ラウンド・第4ラウンドはネリは遠目からのフックに切り替える。このフックは日本のボクサーはあまり使わない軌道で飛んでくるのでチャンスはあったのだけど流石の井上には効かない。むしろ正当なワンツーで正面から被弾してしまうことがわかり、やはり中距離だとネリの分が悪い。ちなみに井上は、「拳を縦気味にして下から伸びてくるストレート」という、これまたアマチュアレベルでは習わないパンチで、ガードの隙間を狙ってきてた。普通の筋力だとあの打ち方は力が乗らないんだけど、どういう練習したらあんなパンチ打てるんだろ・・。普通はストレートは打ち下ろすイメージで練習するので、下から伸びてくるパンチを打つには後ろ足の後ろ側の筋肉と腸腰筋が強くないと打てない気がするのだ。

やはり近距離でないと戦えないとわかったネリは、第5ラウンドでは頭から突っ込んで強引に距離を詰めにくる。井上も肩で押し返したりしていて嫌がるそぶりを見せていたので、ネリはロープにうまく詰める場面を狙っていたはずだった。実際にダウンのシーンはネリの狙い通りで、井上がロープを背負った状態で至近距離に持ち込むことに成功しているのだ。
ところがおそらく井上もこれを狙っていて、逆にネリが突っ込むところを引っ掛けるようにしてフックでダウンをとる。これでネリとしては出来ることはもう何も無くなってしまった。ダウンした後に呆然とした顔を一瞬見せたのは、狙ったはずの展開で逆にやられてしまったからだと思う。

このダウンで足に来ていたのはもう画面でもわかったので、後はいつKOで終わるか・・というだけになってしまった。ネリは出来ることを全部やったけど、それでも万能の井上には勝てなかったという感じ。
今回の試合の結果から、戦い方の引き出した井上より少ない選手が井上に勝つには「早いラウンドで一発で決め切る」しかないとわかったので、これからの試合は最初の3ラウンドぐらいはすごくスリリングな展開になりそうな気がする。

2024年5月 5日 (日)

結局は人間関係こそが命になる: (書評)テックラッシュ戦記 Amazonロビイストが日本を動かした方法 (その1)

「ロビイスト」という職業が日本で市民権を得たのはここ5年ぐらいのことだと思う。それまでも“渉外担当“とか“公共政策担当“のような名前で部署が存在している会社は多かったが、どちらかというと大っぴらに仕事をするというよりも官庁や行政と繋がってあまりよろしくないことをしているというイメージがあった。我々の世代だと「金融業界のMOF担による大蔵省接待」が大問題になった時代を知っているし。

そんな影に隠れて生きるイメージのある「ロビイスト」、しかもAmazon日本法人に所属していたロビイストの本と言うことで興味を持ったのが本書『テックラッシュ戦記 Amazonロビイストが日本を動かした方法』だ。実際に読んでみると実際の仕事がかなり生々しく書いてあるだけでなく、書籍の構成としても非常に上手くできており、紹介せずにはいられなくなった。こういった本は関係者に配慮して曖昧な内容になったり、自分の自慢話になりがちだが、著者の聡明さとバランス感覚でとても面白く仕上がっている。


ロビイストというキャリアと日本の政策立案プロセス

著者によると少なくともAmazonではロビイストになるためには「各国の政策立案プロセスに精通し、いつ、誰に対して、どのような作法で提案をすべきなのかという政策渉外のイロハは他所で十二分に学んできていることが必要不可欠(第三章)」であり、勉強をしっかりしたからといってなれるものではないらしい。
そういう著者も(東工大という理系の大学だが)大学卒業後に、当時の通商産業省(現経済産業省)に入省したキャリア官僚であり、官僚としての20年のキャリアを積んでから、Amazonに日本人一人めのロビイストとして入社している。ちなみに自分も大手外資系メーカーで政策渉外の部長を務めている友人がいるが、その方もキャリア官僚からの転身組だ。

彼によれば、日本の政策立案プロセスは十分な開かれてはおらず、中央官庁における政策検討プロセスや政治家とのコネクション(いわゆる“党側との折衝“)を活かして、政策がオープンになる前に情報提供を行うことが重要らしい。そういった「舞台が上がる前の繋がり」を維持する、あるいは「舞台に上げてもらう」ためには人間関係の構築が重要であり、本書でもロビイングの思考方法の一番最初に「政策立案者から深い信頼を得る\ことが挙げられている。ちなみに本書で挙げられているAmazonのロビイングの思考方法は以下の5つだ。

  1. 政策立案者から深い信頼を得る
  2. 業界をリードする
  3. インフルエンサーのネットワークを形成する
  4. 政府主導のイニシアティブをサポートする
  5. 自らのことを正しく認知してもらう

見ればわかる通り、2以外は人間関係やコミュニケーションに関わる項目であり、ロビイングとは営業活動のように自分と政策を売り込むということがイメージできる。


求められる動的なロビイング

本書で繰り返し出てくる重要な概念として“動的なロビイング“という概念がある。これはこれまでのロビイングと対比して、テック企業のロビイングの特徴として挙げられているもので、その時々のテーマに応じて規制改革や制度整備、そして良好な関係維持のために企業側から積極的に働き華けを行うことが必要であるという意味で「動的」としているらしい。

ちなみに、いわゆる伝統的な日本企業による官庁との繋がりはロビイングとは呼べるものではなく、情報収集にとどまっており、その背景には日本企業は“ルールは変えられない“という思考方法にあるらしい。また外資でも製薬会社などは何年も時間をかけて同じイシューを取り上げるので、音書では“静的なロビイング“としてまとめられている。

 

この部分の著者の指摘、すなわち「日本企業はルールは変えられない」と思考するというのは、アメリカの西海岸にある企業で働いていた自分としても常日頃から感じる部分である。日本企業はある規制が出てきた時に、それを遵守するか、あるいは“遵守していると見せかける“ことに多大な労力を費やすが、ルールそのものへの働きかけを行うことはかなり少ない。

一方で少なくとも西海岸の企業は、ビジネスモデルを構築するにあたって、技術同じくらい法的な側面を重要視する。自分に不利な規制があれば積極的に撤廃へと動くし、グレイな部分は少しでも有利な方に持っていこうとする。これはアメリカでは規制違反に対する懲罰的な罰金が存在したり、大陸法と欧米法における規制の設定の仕方が違うというバックグラウンドもあるが、法律や規制を外的な変数ととるのか、それとも定数と考えるのかの思考の違いがあると感じている。

何よりアメリカでは、ある程度の職位にある人間は契約書の条項を自分で判断することが出来る程度の法律的なリテラシーが求められる。細かいことは法務部に丸投げして「法務部がダメだと言ってるんで・・」と連絡してくるようなことはしない。自分で法的なリスクがどこにあり、どこまではビジネスサイドとして許容したいという意思が明確なのだ。こういったいわば一般的な法的リテラシーの違いというのが、ロビイングという場面における振る舞いにも影響しているのではないだろうか?と感じるのだ。

(長くなったので、次回に続く)

 

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