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2024年5月 7日 (火)

Amazonの人事政策と自らの仕事を結びつける「構成の巧さ」: (書評)テックラッシュ戦記 Amazonロビイストが日本を動かした方法 (その2)

先日のその1では、本書『テックラッシュ戦記 Amazonロビイストが日本を動かした方法』に書いてある”ロビイングの仕事”と、”Amazonにおけるロビイング”について簡単にまとめて紹介をした。後半の今回は、本書に記載してある実際の事例についていくつか紹介をしていこうと思う。

事例紹介とAmazonの人事ポリシーを結びつける

最近では”パーパス経営”といった言葉がすっかり日本でも定着したように、企業が存在する目的やいわゆるMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)といった言葉は日本企業でも普通にあるようになった。ただし日本企業では、実際の現場でこれらの概念が有効活用されている場面というのはほとんどないと思う。

その日本企業に比べれば、こういった考え方は早くから採用していた欧米企業はもう少し現場の判断基準としてパーパスやMVVを活用している。リーダー達の言葉にもよく出てくるし、(少なくとも公式には)昇進の際の基準値の一つになっている会社も多い。とはいえ、数字や結果には日本企業よりもずっと厳しいアメリカ企業ではこういった考え方”だけ”で生きていけるほどは甘くはない。Amazonには友人が何人も勤めており話を聞区限りでは、比較的真面目に運用をしている会社のようだが、それでも現実はマネージャーやリーダー次第といったところだろう。

本書が構成として上手いのは、この時にお題目になりがちな考え方を、Amazonで実際に著者が手がけた仕事とうまく結びつけているところだ。単に事例を紹介するだけだと退屈なものになりそうなところを、Amazonの人事ポリシーである"Amazon Leadership principle"と結びつけることで、それぞれの事例に明確な意味を持たせることに成功している(穿ってみれば、そうやってAmazonの良いところを紹介するという建て付けでないと、事例開示の許可が降りなかったのかもしれない)。

例えばコロナ禍を通じて、すっかり一般的になった「置き配」を働きかける仕事では、AmasonのCustomer obsession(お客様視点の第一優先)とDeliver input(ビジネス結果を生み出すインプットに集中する)に結びつけている。なぜなら「置き配」を実現することが出来れば、顧客はより簡単に荷物を受け取ることが出来ることで、満足度という要素を向上させることが出来るからだ。

ちなみにこの「置き配」の実現、一般市民からすると単に荷物を置いておくかどうかの問題で宅配業者と顧客の関係性だけを気にすればいいのではないか・・と感じてしまうのだが、ロビイストからすると解決しないといけない法律的な問題がちゃんと存在しているらしい。例えばマンションの中で荷物を置くことは”消防法”に抵触する可能性があるし、所轄官庁によっては荷主と輸送事業者をごっちゃにした議論を展開しようとしていたからだ。こういった行政における縦割りから発生する問題をうまく解決するのも、著者のようなロビイストの仕事の一つなのだ。

 

また自分が所属していたIT業界に関連するトピックとしては、金融機関におけるクラウド利用におけるルール作りが興味深かった。今では銀行によっては基幹システムの一部をクラウド化するという事例まで存在しているが、2010年代の初めは金融機関がクラウドを利用するには高いハードルがあった。というのも金融機関は情報セキュリティなどを含めた業務管理について金融庁の監督を受ける立場にあり、金融庁のその監督範囲にはIT統制も含まれているからだ。

本書にも書かれているとおり、それまでの金融業界におけるIT監査というのはオンプレミス(ハードウェアを自前で持つこと)を前提としたものであり、クラウドに対応するルールづくりは出来ていなかった。そのためクラウド事業者の観点からは時代遅れ・・というか、そもそものプロダクトの前提とルールの前提がずれているものが多かったのだ。例えばその最たる例が、本書でも取り上げられている「金融機関によるデータ保管場所の立入検査」だ。それまでは間借りしたデータセンターに自前のハードウェアを置く例が一般的だったので保管場所は明確だったが、クラウドでは保管場所を明確にすることは、クラウド事業者ですらも簡単ではない(文字通りのハードウェアの雲の向こうにデータが保管されているので)。そんな状態で、立入検査を行うことはいたずらにリスクのみを増やす行為であって全く意味がない。

著者の所属しているAmazon = AWSは業界のトップであり、彼らが基準を作ることは業界にとっても、彼らにとっても意味があることだったのは間違いない。ただもし著者の努力がなければ数年間は非現実的なクラウド規制が設定されていた可能性もあるわけで、著者の努力には業界の所属している一人として素晴らしい仕事だったと感じた部分だった(本書で最も感動した部分と言っていい)。


ロビイストが感じる日本の弱点

本書の最後の方では、”外資”の”ロビイスト”である著者が感じる日本の弱点というのがいくつか挙げられている。例えばそれは「企業経営の改革が必要である」といった当たり前のものから、「処方箋規制が染み付いた体質を変える必要がある」といった現場の観点まで様々だ。正直にいえば本書でなくても、あるいは著者でなくても言えることだという気がするだろう。

ただ本書の場合にその言葉がより重く響くのは、著者が20年近い年月を官僚として過ごしてきたという事実があるからだ。自分を含めて転職をする人間というのは、時に過去に所属していた組織のことを悪くいうことがある。「あんなに悪い組織だったから自分が辞めるのは当然なのだ」という感情を自分で持ちたいというわけだ。しかし本書を読んでいれば少なくとも著者はそう言った人間ではないことがわかる。そもそも転職したとはいえそのビジネス(ロビイング)の相手は中央官庁と政治であり、彼らのことを悪くいうのは著者にとって全くメリットがない。

それでも、行政の思考が実際には意味をなしていない「無謬性思考」であるまで言い切るというのは、著者の職業人生の半分への反省と、今後への期待が含まれているように感じられる。自分がやってきた仕事に価値がない、とは思わないだろうが、それをもっと有効にすることができただろうという反省が行間から滲み出てくるのだ。

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